抄録
心症状のみを呈した高齢のFabry病の1症例を経験したので報告する.症例は62歳男性.昭和58年,軽度の労作時前胸部重圧感出現.昭和61年4月より労作時息切れが出現し,当科受診.胸部X線上CTR57%,心電図上T波の逆転を伴う著明な左室肥大,心エコー上び漫性左室壁肥厚とSAMを認め,肥大型心筋症が疑われたが,左室心筋エコー性状が細穎粒状を呈しており,蓄積疾患も考えられた.心臓カテーテル検査,左室造影,冠動脈造影では,血行動態および冠動脈に異常を認めず左室壁のび漫性肥厚が見られたのみであった.左室心内膜下生検にて,Fabry病に特徴的所見が認められ,さらにα-galactosidase-A活性の低下を示したことから確定診断した.Fabry病は男性患者の場合,従来の報告では思春期までに発症するとされており,本例のように高齢になっても心症状以外全く症状を示さない症例はこれまでに報告がない.高齢の男性でもび漫性心肥大を呈する症例では,遺伝性代謝疾患を考慮する必要があり,その診断には心内膜下生検が有用であると考えられた.