抄録
症例は,72歳の多発性骨髄腫の男性.胸部不快感とめまいを主訴に入院した.胸部写真では心胸郭比55%と軽度の心拡大があり,心電図では低電位,陰性T波を認め,洞停止や発作性上室性頻拍などの多彩な上室性不整脈を呈した.心エコー上,著明な左室心筋の肥厚と心室中隔の“9ranularsparklingappearance”を認めた.右室心内膜心筋生検にてCongored陽性の硝子様物質の沈着を認め,心アミロイドーシスと確定診断した.99mTcピロリン酸心筋シンチグラムplanar像では心筋全体にRIの集積を示し,SPECT像では心室中隔および左室の後壁に特に強い集積を認めた.電気生理学的検査においては,修正洞結節回復時間が3,930msecと著明に延長しており,洞不全症候群と診断して,徐脈発作に対して永久ペースメーカー植え込みを行い,心胸郭比の減少,めまいの消失など良好な結果を得た.患者は,劇症肝炎により3カ月後に死亡したが,経過中にペーシング閾値の上昇は認められなかった.剖検所見との対比では,アミロイドによる心筋の組織学的変化の程度と,SPECTにおけるRI集積度は一致しており,本疾患における99mTcピロリン酸心筋SPECTの有用性が示唆された.また,洞結節周辺部のアミロイド沈着とそれに伴う組織の変性や萎縮が確認され,これが洞不全症候群の主因と考えられた.本症例のような骨髄腫合併例を含む,いわゆるALアミロイドーシスにおいても電気生理学的異常を認めた場合には,予防的な永久ペースメーカー植え込みを考慮すべきと思われる.