抄録
症例は56歳,男性.家族歴:母と兄弟に高血圧あり.既往歴:48歳頃より収縮期血圧180mmHgの高血圧を指摘された.現病歴:50歳頃より右鼠径部に拡大傾向のある拍動性腫瘤が出現し,最近左側にも同様の腫瘤が出現した.昭和61年2月某病院にて,胸腹部にわたる広範な大動脈瘤および両側総腸骨・大腿動脈瘤と診断され,後者に対して動脈瘤人工血管置換術を施行された.同年10月精査加療目的にて当院循環器内科入院.入院時血圧:右上肢110/60mmHg,左上肢104/60mmHg.右下肢測定不能,左下肢110/50mmHg.脈拍78/分,整.胸部X線写真:心胸郭比49%,下行大動脈の拡張,蛇行と一部の石灰化を認めた、心電図:正常.大動脈CT:下行大動脈の横隔膜上から総腸骨動脈分岐部に及ぶ広範な大動脈瘤(最大径8cm)を認めた.冠動脈造影:右冠動脈,左冠動脈に紡錘状拡張を認めた.昭和62年2月19日当院循環器外科にて胸腹部大動脈瘤に対して動脈瘤人工血管置換術が施行された.術中に得られた大動脈壁の病理所見からは内膜下層の粥腫が認められた.炎症所見は認められなかった.本例における冠動脈瘤の成因は,大動脈壁の病理所見から推定して動脈硬化性と考えられるが,冠動脈,胸腹部大動脈および冠動脈以外の末梢動脈に共存する多発性動脈瘤の報告はなく,冠動脈瘤と胸腹部大動脈瘤の合併例の1例報告があるのみである.