抄録
心筋梗塞急性期の対側誘導ST下降の成因を,PTCAバルーン拡張時において検討した。対象は,心筋梗塞の既往がない一枝病変中,前下行枝狭窄12例,右冠動脈狭窄4例の計16例で,術前め造影で側副血行を有する例は除外した.PTCA標的領域の対側部ST下降の平均が1mm以上を下降群(8例),1mm未満を不変群(8例)とし,バルーン拡張中に対側冠動脈を造影し潜在性側副血行路(潜副路)を調べた.標的領域平均ST上昇度は下降群2.3±0.6mmで,不変群0.4±0.2より有意に大であった(p<0.01).ST上昇と対側ST下降は負の相関関係を示した(Y=-0.25X-0.32,r=-0.52,p<0.01)。標的領域を対角枝あるいは右室枝で近位部と遠位部に分けた.下降群・不変群共に近位部病変は3例・遠位部病変は5例であり,病変部位と対側ST下降には関係を認めなかった.中等度以上の潜副路を有する9例の,標的領域平均ST上昇度は0.4±02mmであり,有さない7例の2.6±0.6に比べ有意に小さく(p<0.01),不変群の88%が潜副路を有していた(p<0.05,X2).一枝疾患例での,急性冠閉塞の際に生じる対側部ST下降の主たる成因は,電気的鏡像と思われる.対側部ST下降は,標的領域の心筋虚血が強いほど大きく,病変部が近位部・遠位部であっても関係しない.対側ST下降がないということは,標的領域が潜在性側副血行路により保護されていることを意味し,予後良好の重要な指標と推察された.