抄録
Rosenbluethらのイヌ心房粗動モデルを用いて,興奮旋回性頻拍に及ぼす抗不整脈薬の効果を検討した.本モデルでは心房粗動中に興奮伝導遅延部位は低位右房に存在し,抗不整脈薬はこの部位に選択的に作用して粗動を停止した.高頻度心房刺激による粗動誘発時に,一方向性ブロックは低位右房に出現し,同部位では分界稜あるいは太い櫛状筋がその筋線維の方向が興奮前面を横切るように存在する.本実験モデルでは,低位右房の特微的な解剖学的構築が興奮旋回の発生・接続および抗不整脈薬の薬効と深く関連している.抗不整脈薬の主たる電気生理学的作用は不応期延長と伝導抑制である.本モデルで検討した結果,III群薬は不応期延長効果が大きく,興奮間隙を消失することにより興奮旋回を停止した.Ia,Ic群薬では,興奮間隙は消失せず,伝導抑制により興奮旋回が停止することが示された.興奮間隙を広げるIc群薬投与後に粗動再誘発率が高く,伝導抑制の強い薬剤は,興奮旋回発生の解剖学的基盤がある場合,安定した興奮旋回路を形成しやすく,これが本薬剤の催不整脈作用と関係していることが推測された.