Treadmill(T)運動負荷時にSTが0.1mV以上下降(ΔST≧0.1mV)したHNCM16例を対象に,運動時ST下降に対するverapamil(V)とpropranolol(P)の効果を検討した.
T時間は無投薬時と両薬剤投与時で有意差はなかったが,運動時のΔST下降は無投薬時0.17±0.07mVに対し,V時は0.08±0.06mVと有意に改善し,P時は0.14±0.05mVと不変であった.運動時のPRP増加度は無投薬時とV時は同等であったが,P時は無投薬時に比し有意に減少した.ΔST/ΔHRは無投薬時2.3±1.0μV/bpmに対し,V時は1.2±0.9μV/bpmと有意に低値となったが,P時は無投薬時と同等であった.0.1mVΔST下降時の変動では,T時間は無投薬時240±95秒がV時は380±100秒と有意に延長し,ΔHRは52±14拍/分から65±12拍/谷と有意に増加したが,P時は無投薬時と同等であった.以上のように,運動時ST下降はV投与により改善したが,P投与では改善は得られなかった.これらの成績は,V投与による運動時ST下降の改善は心筋酸素供給の増加による心筋虚血の緩解によって生じたことをうかがわせる結果である.運動時の収縮期血圧上昇度(ΔSBP)が,無投薬時39±30mmHgに対してV時57±34mmHgと有意に増加したことも,虚血の改善などによって心機能が改善したことを示唆している.
したがって,V投与による運動時ST下降改善は,心筋虚血改善によって生じた可能性が大きいが,伝導障害改善など他の因子の関与も否定できないと考えられた.
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