1992 年 24 巻 5 号 p. 529-538
冠攣縮性狭心症,胸痛症候群,X症候群における冠循環動態の特徴を,左冠動脈DSAを用いて,種々の薬物負荷を行い検討した.冠循環指標としての左冠循環時間は,いずれの疾患群でも正常に比し有意に延長しており,また心筋灌流指標も異常を示した.これらの疾患群では冠末梢循環障害が存在することが推測され,冠動脈造影上不可視の冠末梢動脈の拡張障害が考えられる.胸痛症候群では硝酸剤に対する冠末梢反応性が障害されており,X症候群ではエルゴノビン左冠動脈内投与時の心筋灌流障害が冠攣縮性狭心症と同様に見られる.冠攣縮性狭心症ではジピリダモール左冠動脈内投与にて冠循環時間が正常化するが,心筋灌流は正常例とは異なり改善しない.このことより,冠攣縮性狭心症では冠末梢動脈のジピリダモールに対する反応不良と,冠小動脈より近位での短絡路の存在が推測される.
胸痛症候群やX症候群の一部には,薬物負荷やペーシング負荷で明らかに冠末槍循環障害を示す症例が含まれており,rnicrovascular anginaといわれる病態を反映している可能性が高い.