1992 年 24 巻 6 号 p. 701-706
症例は40歳の女性.34歳頃より主に冬期に5分程度の労作時前胸部痛を自覚していたが放置していた.検診で心電図異常を指摘されて当科へ入院となり,負荷心電図によってI,II,aVF,V1~6で著明なST低下が認められた.冠動脈造影で左冠動脈前下行枝,右冠動脈の完全閉塞が認められ,左冠動脈主幹部,回旋枝,右冠動脈右室枝に多発性の冠動脈瘤が認められた.冠動脈瘤を合併した重症二枝病変であり冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting:CABG)を施行した.冠動脈瘤の成因は動脈硬化性と先天性が大部分とされている.本例には冠危険因子を認めず,眼底にも動脈硬化性変化を認めなかった.また,他の合併奇形もなく,冠動脈の組織学的所見上動脈炎瘢痕期の像を呈し,冠動脈瘤の発生部位およびその形態像より,川崎病後遺症としての冠動脈瘤が最も疑われた.成人期に発症した川崎病後遺症としての冠動脈病変に対するCABGの報告,組織学的所見の報告,および左冠動脈主幹部動脈瘤の報告例は少なく,本例は貴重な症例と考えられるので報告する.