1992 年 24 巻 6 号 p. 712-718
今回我々は単独心房梗塞と思われる2症例を経験した.2症例とも心筋由来の血清酵素の明らかな上昇が見られたが,心電図において有意なST変化を認めず,P-Taの偏位と上室性期外収縮のみが見られた.その偏位はYoungらが述べた基準を十分に満たすものであり,かつ梗塞部位は左房前壁と推測できた.この偏位は4,5日で消失したが慢性期負荷心電図にて,2症例とも急性期と同じ誘導に,同様なP-Taの偏位を認め,時間の経過と共に改善した.この変化は心房の生理的構造および特性を考えると,単に左心房の虚血のみを反映しているのではなく,運動負荷により左心機能を代償する心房の形態学的変化の関与の可能性も示唆され,興味深い所見と思われた.