1993 年 25 巻 12 号 p. 1417-1423
急性心筋梗塞の心電図に関する研究は数多くあるが,心筋梗塞発症の瞬間をとらえた報告は少ない.今回我々は,ホルター心電図装着中に急性心筋梗塞を発症した1例を経験し,その前後の心電図を詳細に検討することができたので報告する.患者は59歳男性.平成4年1月初旬より週3,4回,2,3分持続する前胸部圧迫感出現.狭心症の疑いで2月12日ホルター心電図を装着した.翌13日午前9時2分に冷汗を伴う激しい前胸部痛出現30分程続いたため外来受診した.心電図上II,III,aVFでST上昇していたため下壁心筋梗塞と診断,入院となった.梗塞発症時のホルター心電図を検討した結果,ST,Tの上昇は一様なものではなく,まずhorizontalに上昇し,次いでdown slopingとなり,最後にup slopingとなることが明らかとなった.しかもこれらの変化は梗塞発症後20分以内に起こっていた.従来心筋梗塞発症直後には,まずT波の増高が起こるといわれているが,本症例ではST上昇に先行するT波の増高は認められなかった.本症例の心電図変化が典型的なものかどうかは分からないが,心筋梗塞発症時の心電図の検討には,さらに多数例での解析が必要であると思われる.