1993 年 25 巻 12 号 p. 1433-1437
症例は,安静時胸部症状を認めた多発性筋炎の35歳の男性.運動負荷心電図および運動負荷T1心筋シンチグラムでは陰性であったが,過呼吸負荷T1心筋シンチグラムで陽性であったことより,心臓カテーテル検査を施行.左室造影像では,心尖部に限局性の壁運動低下を認めたが,冠動脈造影では,有意な動脈硬化病変や血管炎などの所見は認められなかった.しかしエルゴノビン負荷により,左右冠動脈に冠攣縮を誘発し得た.心筋生検では,心筋線維の大小不同,間質および小細静脈周囲への炎症細胞の浸潤そして間質の線維変性を認めたことより,多発性筋炎により惹起された心筋炎が示唆された.これらより,本例の壁運動異常の機序として,多発性筋炎を基礎とした心筋炎によるものが推察された.安静時胸部症状の機序としては,過呼吸負荷T1心筋シンチグラフィーで再分布を伴う心筋灌流障害所見を認め,エルゴノビン負荷で冠攣縮を誘発できたことより,冠攣縮の関与が示唆された.