心臓
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症例 ダール食塩感受性ラットを用いた新しい心不全移行モデルの開発とその左室・心筋収縮特性の検討
木原 康樹猪子 森明篠山 重威
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1995 年 27 巻 5 号 p. 450-461

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抄録

【目的】心不全病態の究明のために,臨床に類似しかつ短期間に再現性よく左室機能不全に移行する小動物モデルが求められている.ダール食塩感受性ラット(DS)がこの目的に叶うモデルとなる可能性を検討した.【方法】DSとダール食塩抵抗性ラット(DR)に6週より8%の高食塩負荷を行い血圧・体重,心エコーにて左室拡張期末径(Dd)・壁厚・径短縮率(FS)を経時的に観察し,合わせて体液因子[ノルエピネフリン(NE)・心房利尿ホルモン(ANP)]および組織病理の検討を行った.またin vivoで左室収縮期末圧-容積関係(ESPVR)を測定し左室収縮性の推移を検討した.【結果】DRは正常血圧を維持し,LV/BW比は一定で(0.21±0.02-0.23±0.02%)観察中死亡例は皆無であった.それに対しDSは10週以降230mmHgの高血圧を呈した.11週においてLV/BWは0.32±0.02%と増加,左室は求心性肥大をきたしたが,左室壁応力は17.9±13.1g/cm2と正常域にありNE(178±87pg/ml)・ANP(554±198pg/ml)も正常であった.それに対し,18週では,LV/BWは0.47±0.04%とさらに増加し,Ddは拡大しFSは44±4%から25±5%と低下した.壁応力は120.5±27.5g/cm2と増加し,NE(465±240pg/ml)・ANP(2,197±1,629pg/ml)は著増した.11週にてDRの左方に位置したESPVRは,18週ではDRの右方に偏位した.DSは22週までに全例努力性頻呼吸状態を呈した後に死亡し,病理学的に胸水・肺水腫が示された.同時期の左室心筋細胞短径はDRに比して31%増大していたが,左室組織線維化領域は高々2%であった.【総括】DSは代償性心肥大より,うっ血を伴う左室機能不全への移行を再現性よく観察できるモデルである.またその際の左室不全の原因は,単位心筋収縮性の低下にあることが示唆された.

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