症例は45歳,女性.平成8年8月16日に心窩部痛を自覚し近医受診.心電図上V1,V2誘導にてQS波,V1~4誘導にてST上昇を認めた.急性前壁中隔心筋梗塞を疑われ,当院に入院となった.入院時の冠動脈造影では有意狭窄を認めず,左室造影では前壁の壁運動は著明に低下し,心尖部は奇異性壁運動を呈した.CK最高値は752U/lであり,99mTctetrofosmin心筋シンチグラムでは灌流欠損を認めなかったが,巨大陰性T波の回復には3カ月を要した.第25病日に施行した左室造影では壁運動異常を認めなかった.同時に測定した左前下行枝の冠血流予備能は著明に低下していた.
本例は広範なstunned myocardiumを伴った急性心筋梗塞の1例と考えられた.左室壁運動が著明に改善した時点において冠血流予備能の低下が観察されたことは,虚血再灌流後の冠血管機能障害の遷延,いわゆるvascular stunningに関連した現象として興味深く,若干の考察を加えて報告した.