心臓
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症例 冠動脈造影にて2年間の自然経過が追えた心臓原発血管肉腫の1例
良永 宇由宮原 嘉之波多 史朗内藤 達二園田 康男谷岡 芳人河野 茂
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1998 年 30 巻 10 号 p. 653-657

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抄録

原発性心臓腫瘍は極めてまれな疾患で,20-30%を悪性腫瘍が占める.最も頻度が多いのは血管肉腫であるが,典型的所見に乏しく,病期が進行してから発見されることが多いため,診断確定後の予後は不良である.今回,我々は,結果的には,早期の段階から2年間にわたり冠動脈造影にて自然経過が追えた心臓原発血管肉腫の症例を経験したので報告する.
症例は55歳,女性.主訴は胸痛で,狭心症を疑い冠動脈造影を行った.右冠動脈中枢部近傍にわずかな造影剤の濃染像を認めたが,心タンポナーデをきたした3カ月後には,腫瘤の存在は明らかにならず経過観察とされた.その後18カ月間の無症状の時期を経て2年後にショック状態となり,再入院した時には右冠動脈の濃染部は閉塞しており,胸部CT・MRI・心エコーにより右房~右室にかけて腫瘤を認め,その後の剖検にて初めて血管肉腫の診断に至った.本症例はこの経過から,初回の冠動脈造影の時点で既に腫瘍は存在したと考えられる.
血管肉腫の診断には,MRI,CT,心エコーなどの非侵襲的な検査が有力とされるが,心電図変化がなければ冠動脈造影は行われないこともある.しかし,本症例は初回入院時には冠動脈造影でしか診断の手掛かりを得ることができなかったという事実より,胸痛主訴の患者では腫瘍も鑑別に加えて造影所見を検討すべきと思われた.また,2年間にわたり自然経過が追えたことはまれと思われたため報告する.

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