心臓
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第31回河口湖心臓討論会 テーマ : 心血管系の発生・分化と老化 新しいヒト早老症モデルマウスの確立
黒尾 誠
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1998 年 30 巻 6 号 p. 401-409

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抄録
最近我々は,ヒトの老化によく似た表現型を示す新しい老化モデルマウス(klotho)を開発した.これはトランスジェニックスマウス作成中に導入遺伝子の挿入突然変異によって得られた系統で,成長障害,活動性の低下,寿命の短縮,動脈硬化,性腺・胸腺の萎縮,骨粗鬆症,軟部組織の石灰化,肺気腫,小脳Purkinje細胞の部分的脱落,下垂体成長ホルモン産生細胞の萎縮,皮膚の萎縮などの多彩な老化現象が常染色体劣性遺伝を示す.
導入遺伝子をマーカーとしたポジショナル・クローニングによって導入遺伝子挿入部位の近傍から1つの遺伝子を単離した.それは新規の1回膜貫通型蛋白をコードしており,細胞外ドメインは植物や細菌のβ-glucosidaseと約20-40%のホモロジーを示した.klgeneの発現は主に腎臓と脳で認められたが,klothoマウスでは発現が著減していた.さらに,このcDNAを過剰発現するトランスジェニックマウスを作成してklothoと交配したところ,全ての老化の表現型が救済された.以上の結果から,この遺伝子をklothoマウスの原因遺伝子と同定した.
klotho遺伝子の発現は本来一部の組織に限局しているにもかかわらず,klothoマウスの老化の表現型は全身の臓器に及んでいる.このことはklotho遺伝子は何らかの分泌性の因子を介して個体老化を制御している可能性を示している.klotho遺伝子の機能を解析することで,老化の分子機構を解明する手がかりが得られるものと期待される.
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