心筋の収縮は内因性機構と外因性機構とによって調節されている.内因性機構は筋長変化による収縮調節機構で,心筋自体が有する収縮調節メカニズムである.外因性機構は細胞内外のイオン環境やホルモン,自律神経伝達物質などによる調節機構である.ここでは,筋長変化による収縮調節の細胞内メカニズムと,虚血時に細胞内に増加するADP,H+,リン酸によって収縮蛋白系のCa2+感受性が変化したときに,筋長変化の効果がどのように修飾されるのかを調べた.また,虚血時に変化する細胞内アデニン化合物とNa+濃度が筋小胞体からのCa2+放出に及ぼす影響を検討した.MgADP濃度低下によってCa2+感受性は上昇したが,筋の伸張によるCa2+感受性上昇は抑制された.pHの低下やリン酸濃度増加によって,Ca2+感受性は低下したが,筋の伸張によるCa2+感受性上昇は反対に亢進した.細胞内ATPは筋小胞体からのCa2+放出に対して促進的に働くが,10mMを超えると促進効果が減弱した.ADP,AMP,adenine,adenosineはATPの効果に拮抗的に作用した.細胞内Na+濃度はある濃度範囲内で濃度依存性にCa2+放出を促進した.虚血時には筋小胞体のCa+放出,種々の要因による収縮蛋白系のCa2+感受性だけでなく,筋長効果も影響を受けて収縮調節が行われている.