1975 年 7 巻 3 号 p. 288-296
造影剤に安定剤として EDTA 2Naが10-40mg/dl含まれているが,選択的冠状動脈造影時に心収縮に及ぼす影響を実験的に検討した.血液に EDTA 2Naを加えると40mg/dlで血中のCa++ は約1/2低下し80mg/dlをこえるとほとんど全てがキレート化される.実験犬の前室間枝に,自家血10mlに EDTA 2Naを加えて注入し各濃度での左室圧,maxdp/dt/p,心拍出量,前室間枝灌流域および左回旋枝灌流域の収縮張力,心表面心電図の変化をみたところ,左室圧,心拍出量などの低下は著明でないが,前室間枝灌流域の収縮張力の低下が著しく濃度が60mg/dlをこえると収縮期にbulgingを認めるようになった.心電図では EDTA 2Naの濃度に応じQT時間が延長し,心室性期外収縮も増加し,60mg/dlでは16%,80mg/dlでは68%,100mg/dlでは全例が心室細動を発生した.
以上のことから選択的冠状動脈造影時にみられるQT時間の延長,心室性不整脈,一過性の左心機能低下の一因子として EDTA 2Naが関与していることが示唆された.