1975 年 7 巻 9 号 p. 1023-1030
不整脈の診断,ひいてはその治療に逆行性P波(P')の正しい認識は重要である.心室起源収縮11例,房室接合部起源収縮5例(年齢10~64歳)の双極食道誘導(BE,時定数0.05秒)に認められたP'を検討した.
正常洞性P波(P)は左房後面中央部付近でつねに急激な極性逆転(bipolar atrial transition-BAT)を示し,その上方では+-,下方では-+の二相性であった、P'はPと形態を異にし,洞性P波のBATより上方で+-より-+へ極性を逆転した.P'はPの予期される出現時刻より早期に出現した.P'は異所性QRS(R')後の限られた時間内に出現しR'PI'間隔(R'の始めよりP'のintrinsicoid deflectioまで)は0.12~0.26秒であった.房室接合部副収縮例で,R'PI'と先行RRとの間およびR'PI'と連結期(RR')との間の偏相関係数は各々R=+0.569および-0.745,重相関係数は+0.814であり,回帰平面R'PI'=0.129+0.128RR-0.175RR'(単位は秒),SEE=0.008(P<0.001)が得られた.時定数を0.05秒に減じてもBEの利点は損われず,逆行性P波の診断,分析に極めて有用であった.またBEにより,食道に接した左房後壁部分の興奮伝播過程の推測を試みた.