1975 年 7 巻 9 号 p. 1079-1085
左冠状動脈肺動脈起始症は極めて重篤で,その大部分は1歳前後の乳児期までに死亡する.左・右冠状動脈間に側副血行路の発達が乏しい,いわゆるinfantile typeに対しては左冠状動脈血行再建術が唯一の治療手段になる.われわれは生後間もなくより心不全を繰り返していた7ヵ月男児の重篤な本症に対して,母親の同種大伏在静脈を用いて上行大動脈・左冠状動脈間にinterpositionを行ない救命し得た.
手術は表面冷却・体外循環併用法により,最低温度(食道)15℃で行なった.循環遮断下に,肺動脈のposterior sinusに開口する左冠状動脈を肺動脈壁を用いflangeをつけて切離し,これとあらかじめ採取した母親の同種大伏在静脈を端々に吻合,上行大動脈間にinter-positionした.術後の冠状動脈造影では,移植された同種大伏在静脈はやや狭窄気味ではあるが開通しており,比較的順調な術後経過を辿った.