室内環境
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原著論文
マウスにおけるディーゼル排気由来SOAの発達期曝露が不安症・うつ病に及ぼす影響
WIN-SHWE Tin Tin 藤谷 雄二平野 靖史郎
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ジャーナル オープンアクセス

2019 年 22 巻 1 号 p. 23-32

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抄録

ディーゼル排気微粒子(diesel exhaust particle; DEP)は大気中の粒子状物質の主要な構成要素であり,一次排出物質が酸化した結果,ディーゼル排気由来二次生成有機エアロゾル(diesel exhaust derived secondary organic aerosol; DE-SOA) が生成される。我々はこれまで,マウスの胎児期から乳児期にかけてのDE-SOA曝露が一部の社会行動および空間学習能力に影響を及ぼす可能性があることを報告してきた。近年,疫学的報告では大気汚染と精神障害との間には関連性があるとの報告があるが,不安や抑うつ症状に対するDE-SOA曝露の影響についてはほとんど知られていない。本研究では,胎児期から乳児期にかけてのDE-SOA曝露が不安・情動レベルに及ぼす影響について検討した。BALB/cマウスを用いて胎性14日目から生後21日目まで1日5時間,週5日間のスケジュールで曝露を行った。実験群はControl,DE-SOA,DEとガスのみ群にした。実験では不安症・うつ病に関するテスト(明暗箱往来試験,強制水泳試験)を行った。明暗往来試験,強制水泳試験どちらにおいても群間に差は見られなかった。本研究の結果から,胎仔期から乳仔期にかけてDEもしくはDE-SOAを曝露しても成長後に不安症・うつ病を引き起こすような影響はないということが示唆された。これらの結果から胎仔期から乳仔期でのDEもしくはDE-SOA曝露は少なくとも不安・情動レベルを司る中枢神経系の発達には影響があるという結果は得られなかった。しかし,脳内視床下部における酸化ストレスおよびミクログリア活性化は見られた。本研究の結果は,脳発達期間中のDE-SOA曝露が分子レベルの変化を誘発するが,機能レベルは変化しない可能性があることを示唆している。

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© 2019 一般社団法人 室内環境学会
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