室内環境
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22 巻, 1 号
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原著論文
  • ―貯蔵精白米中濃度を指標として―
    渡邊 美咲, 水島 亜樹, 吉田 精作
    2019 年 22 巻 1 号 p. 3-14
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    居住者へのシロアリ防除剤暴露について, 室内に静置した精白米中シロアリ防除剤濃度を指標として調査した。調査は, 2007年から2016年に関西圏の一般家庭を対象として行った。精白米を台所等に1週間放置して室内空気を暴露させることにより, 室内空気に含まれる殺虫剤を精白米に吸着させた。調査対象物質はシロアリ防除剤として使用された有機リン系殺虫剤のクロルピリホス, ダイアジノン, フェニトロチオンおよび有機塩素系共力剤S-421である。精白米は, アセトン・ヘキサンによるホモジナイズ抽出後, シリカゲルカラムで精製した。クロルピリホス, ダイアジノン, フェニトロチオンはGC-FPDで, S-421はGC-ECDで定量した。有機リン系殺虫剤の検出頻度はクロルピリホスで9/244, ダイアジノンは検出されず, フェニトロチオンは12/244であった。最高値はクロルピリホスで35 ng/g(2008年), フェニトロチオンは4.3 ng/g(2016年)であった。クロルピリホスが検出された9例のうち6例において2003年以前にシロアリ防除を行っていたと推察された。S-421は分析した216例中214例から検出され, 最高値は29 ng/g(2008年)であった。S-421の検出頻度は高いが, 経年的に濃度レベルが減少していることがわかった。
  • 三澤 和洋, 蘓原 滉稀, 熊井 夕貴, 久須窪 雄希, 関根 嘉香
    2019 年 22 巻 1 号 p. 15-22
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    微小粒子状物質(PM2.5)に含まれる酸化還元活性物質(PAHキノン類など)は, 細胞内で酸化還元サイクルを介して活性酸素(Reactive Oxygen Species, ROS)の産生を助長し, 生体に対して酸化ストレスを引き起こすと考えられている。本研究では, 光触媒反応によるPM2.5のROS産生能の低減効果を検証することを目的に, アナターゼ形TiO2を担持した石英繊維フィルターを作成してPM2.5試料をろ過捕集し, 紫外線を照射した前後のROS産生能をフローインジェクション分析-ジチオトレイトールアッセイにより評価した。その結果, 採取したPM2.5試料のROS産生能は紫外線照射前が0.18~0.31 nmol min-1 m-3(中央値0.21 nmol min-1 m-3, n=9)であったのに対し, 紫外線照射3日後は0.088~0.19 nmol min-1 m-3(中央値0.15 nmol min-1 m-3, n=9)となり, 有意に減少した(p=0.008)。ただし, ROS産生能の減少は単調ではなく, 一時的に増加して減少する傾向を示した。これは光触媒反応によるPAHキノン類の分解と同時に, 前駆物質の多環芳香族炭化水素からPAHキノン類が生成したためと考えられ, ROS産生能の低減を図るには, 共存する多環芳香族炭化水素の影響も考慮する必要があることが示唆された。
  • WIN-SHWE Tin Tin, 藤谷 雄二, 平野 靖史郎
    2019 年 22 巻 1 号 p. 23-32
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    ディーゼル排気微粒子(diesel exhaust particle; DEP)は大気中の粒子状物質の主要な構成要素であり,一次排出物質が酸化した結果,ディーゼル排気由来二次生成有機エアロゾル(diesel exhaust derived secondary organic aerosol; DE-SOA) が生成される。我々はこれまで,マウスの胎児期から乳児期にかけてのDE-SOA曝露が一部の社会行動および空間学習能力に影響を及ぼす可能性があることを報告してきた。近年,疫学的報告では大気汚染と精神障害との間には関連性があるとの報告があるが,不安や抑うつ症状に対するDE-SOA曝露の影響についてはほとんど知られていない。本研究では,胎児期から乳児期にかけてのDE-SOA曝露が不安・情動レベルに及ぼす影響について検討した。BALB/cマウスを用いて胎性14日目から生後21日目まで1日5時間,週5日間のスケジュールで曝露を行った。実験群はControl,DE-SOA,DEとガスのみ群にした。実験では不安症・うつ病に関するテスト(明暗箱往来試験,強制水泳試験)を行った。明暗往来試験,強制水泳試験どちらにおいても群間に差は見られなかった。本研究の結果から,胎仔期から乳仔期にかけてDEもしくはDE-SOAを曝露しても成長後に不安症・うつ病を引き起こすような影響はないということが示唆された。これらの結果から胎仔期から乳仔期でのDEもしくはDE-SOA曝露は少なくとも不安・情動レベルを司る中枢神経系の発達には影響があるという結果は得られなかった。しかし,脳内視床下部における酸化ストレスおよびミクログリア活性化は見られた。本研究の結果は,脳発達期間中のDE-SOA曝露が分子レベルの変化を誘発するが,機能レベルは変化しない可能性があることを示唆している。
  • 鈴木 剛, 中島 大介, 中山 祥嗣, 白石 不二雄, 田村 憲治, 滝上 英孝, 新田 裕史
    2019 年 22 巻 1 号 p. 35-43
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    東日本大震災は, 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震による災害であり, 海岸線に押し寄せた津波によって甚大な被害をもたらした。津波被災地域の避難所等の居住区では, 津波堆積物等由来の飛散粉じんによる呼吸器疾患等の健康被害が懸念された。本調査では, 宮城県と連携して, 同年5月~9月にかけて, 津波被災地域の避難所5カ所と高等学校1カ所の室内浮遊粉じん(PM2.5, PM10及びTSP)の測定とハウスダストの性状評価及び元素分析を実施した。PM2.5の濃度は, 調査期間の平均値が18~31 μg/m3であり, 1日平均値の環境基準35 μg/m3以下であった。また, PM2.5, PM10及びTSPの濃度は, 調査期間を通じて概して低い値であり, 大半の測定場所で時間経過に伴って減少傾向であった。一方で, 人の活動が活発になる午前8~9時から午後4~5時においては, 35 μg/m3を超過することがあり, 高感受性者の体調の変化に注意を向ける必要があると考えられた。室内浮遊粉じんの測定結果は, 津波に浸水した建屋(或いはその近傍)かどうか, 土足で出入りしているかどうか, 定期清掃を行っているかどうかが, その濃度に影響を与える重要な因子であることを示唆した。ハウスダストのふるい処理による性状評価は, 避難所のハウスダストの観察によって室内浮遊粉じんの発生状況を推察できる可能性を示した。また, ハウスダストの元素分析の結果は, 避難所内に設置されている物品由来の化学物質に留意が必要であることを示した。
  • 橋本 一浩, 川上 裕司, 中山 祥嗣, 鈴木 剛, 白石 不二雄, 新田 裕史, 中島 大介
    2019 年 22 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル オープンアクセス
    2011年3月11日の東日本大震災によって発生した災害廃棄物は, 地方公共団体が管理する土地を仮置き場として野積みにされた。2011年6月, 隣接する空き地に災害廃棄物が積み上げられた宮城県石巻市の高等学校を訪問し, 瓦礫から発生したと考えられるハエ類や浮遊微生物の調査を実施した。校舎内で捕獲したハエ類30個体のうち, 17個体は屋内侵入性のイエバエ類Muscoideaであった。また, ハエ類の体表面から病菌細菌の分離を試みたところ, 大腸菌Escherichia coliが30個体中15個体(50%)から, 緑膿菌Pseudomonas aeruginosaが5個体(17%)から, サルモネラSalmonella entericaが13個体(43%)から分離された。屋内の浮遊細菌および浮遊真菌濃度は日本建築学会の規準値以下であったが, 屋外の浮遊真菌濃度は災害廃棄物の瓦礫に近いほど高くなる傾向にあった。また, 吸入性アレルゲンとして重要な真菌であるAlternaria属およびEurotium属の屋外濃度が国内の一般環境と比較し, 高濃度であることが明らかになった。
総説
  • 篠原 直秀
    2019 年 22 巻 1 号 p. 55-63
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    東日本大震災後の仮設住宅および居住制限区域や帰還困難区域内の一般住宅の室内環境について, 公表されている結果を整理した。仮設住宅の建築時の室内空気中の揮発性有機化合物類(VOCs)の濃度はアセトアルデヒドと総揮発性有機化合物類(TVOC)を除いて室内濃度指針値を超えていなかった。一方, 居住開始後には多くの住宅でp-ジクロロベンゼン濃度が室内濃度指針値を超えていた。また, 冬季の窒素酸化物は, 室内で燃焼系暖房機器を使用していた住宅において, 高い濃度がみられた。仮設住宅の温熱環境は, 夏季や冬季に不快だと感じられる温湿度になる住宅が多くあり, 深刻な結露や目視できるカビの発生がみられる住宅も少なくなかった。浮遊真菌濃度は, これまでに報告されている一般住宅と比べてかなり高い濃度の仮設住宅が多かった。居住制限区域における一般住宅室内の浮遊真菌は極めて高濃度であり, 帰宅頻度と逆相関がみられた。また, 室内に食品等が長期間放置されていたためか, 発がん性のオクラトキシンを産生するAspergillus section Circumdatiが複数の住宅で検出された。帰還困難区域における一般住宅のハウスダスト中の重量当たりの放射能は, 周辺の屋外の土壌中の重量当たりの放射能と比べてはるかに高く, 原子力発電所における事故後のプルームの通過時に直接室内に入った放射性セシウム粒子が沈降・凝集した可能性が示唆された。
解説
  • 丸尾 容子
    2019 年 22 巻 1 号 p. 65-72
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    東日本大震災における仮設住宅の戸数の推移と仮設住宅の状況を調べることによって災害時の室内環境について考察を行った。仮設住宅戸数・入居した人数ともに経年により減少傾向であるが, 災害救助法に定められている応急仮設住宅の供与期間の2年では, 仮設住宅より退去した割合は約10%であった。震災後7年経過時においてもピーク時の約10%が入居しており, 宮城県や岩手県は入居期間を9年に延長する措置をとることを決定している 従って災害時でも健康的な室内環境で生活を送るためには応急仮設住宅の入居期間においては少なくとも50%退去が達成された5年との考えのもと設計・建築を行い, それなりの措置を講じることが必要と考えられた。また, 岩手県では借上型であるみなし仮設住宅の広さや築年数の調査及び入居者へのアンケート結果より, 築20年以上で60m2以下の木造住宅に入居した人が多かったことが判った。このような住宅は断熱・換気性能などが充分でないためカビや結露による室内環境の悪化が想定された。入居者は集合住宅での居住の経験がない人々も多いため, 健康な室内環境で生活するため換気設備など技術の対応とともに住民間の情報交換や生活指導など, ハード面とソフト面の両方の支援が重要と考えられた。
  • 山岸 弘
    2019 年 22 巻 1 号 p. 73-79
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/01
    ジャーナル フリー
    私たちが生活する住宅内には様々な微生物が存在することが知られている。近年の衛生意識の向上に伴い, 住宅内の水周りである浴室やトイレにおいて, 生活者が気にする汚れは石鹸カス, 皮脂, 水垢, 尿石などだけではなく, カビやヌメリ, 雑菌, さらにはニオイにまで及んでいる。浴室の代表的な微生物汚染は床や壁に生える黒いカビや排水口に発生するピンク色のヌメリなど, 視覚的に認識されるものが多く, 生活者の不快感につながっている。本報では一般家庭の浴室における主要汚染カビやピンクヌメリ原因菌を明らかにし, カビ汚染の特徴や汚染のメカニズム, 温度湿度や汚れ成分が微生物の生育に及ぼす影響について解説すると共に, 日常の微生物対策, さらにはカビの汚染源に対処できる簡便且つ効果的なカビ対策を紹介する。一方, トイレには飛び散った尿に起因する微生物汚染やニオイ, ホコリといった様々な汚れが存在する。近年, 尿の飛び散りに対しては注目度が高く, 家庭での男性の小用スタイルの変化にも表れている。本報では尿の飛び散りや微生物汚染の実態, 微生物とニオイの関係について解説し, 併せて効果的な微生物対策について紹介する。
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