抄録
繭糸分離細繊維の発生が顕著な系統(F7)にみられる不整形なフィブロインの繊維側面を観察するために,臭化リチウムによるフィブロインの膨潤処理を行った.その結果,側面に発生した線状の溝を光学顕微鏡下で観察することが可能となり,これらはフィブロイン表面の陥入によって生じる異常構造であることが繭糸の断面SEM画像からも判った.線状溝は繭層外層から中層に分布していたが,内層では認められなかった.外層には,陥入の初期段階と思われる僅かな窪みが確認された.一方,繭糸分離細繊維を発生しない系統(CV)では線状溝は認められなかった.以上の結果から,陥入構造はF7に特異的であり,繭糸分離細繊維の発生にはフィブロイン表面の陥入が深く関与している可能性が示唆された.また,陥入により著しく分裂したフィブロインも確認され,繭糸分離細繊維を発生する系統のフィブロインには構造的な欠陥が潜在している可能性が示された.