2002 年 42 巻 3 号 p. 11-19
本研究は,イングランドの初等学校の理科において環境教育がどのように位置づけられ実践されているかを調べることである。『全国共通カリキュラム理科』の原案作成に当たった「理科に関する調査委員会(Science Working Group : SWG)」による教科理科からの環境教育の視点,全国共通カリキュラム審議会(National Curriculum Council : NCC) によるクロスーカリキュラムの視点からの環境教育, 1995 年に改訂された『全国共通カリキュラム理科』そして理科教育協会(Association for Science Education: ASE)の報告書を用いての文献による調査と現地調査を行った結果,以下の点が明らかになった。(1) SWGは理科における環境教育を科学的概念の理解や貴任のある態度(安全,生物や自然環境を大切にする)といった理科の役割を演じるための一つの手段として位置づけていた。(2) 『全国共通カリキュラム理科』における環境教育の内容は次の通りである。・環境の中で営まれている自然の仕組みについて理解すること。・生物や環境の保護について考えること。また,理科の実験や探究に関する全ての内容(実験を計画する,実験結果を得る,結果の考察)は,環境教育に発展させる機会を提供するとされていた。(3) 調査を行った初等学校では,理科の授業は環境の中での探究を効果的にするための準備として行われていたと考えられる。すなわち,環境の探究に必要とされる科学的スキルや知識は,理科で身近な環境の観察を通して,また,できる限り他の教科と関連させながら獲得される。そして, Field trip または, Field Studies Council (FSC) での活動やトピック学習は,理科だけでなく他の教科で得られた知識やスキルを関連させ応用させるための機会を提供するものとしてとらえられていた。このように,『全国共通カリキュラム理科』導入後も各学校の裁量が残されており,実施にあたっては,行政レベルで示された理論がそのまま実践化されていると言える。