理科教育学研究
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原著論文
幼稚園におけるカイコ教材の意義の検討―KJ法による保育者記録の分析を通して―
亀山 秀郎
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キーワード: 幼児, カイコ, 保育者記録, KJ法
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2011 年 52 巻 2 号 p. 55-64

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抄録

幼椎園において子どもたちは様々な生き物と出会っていく。その中で,ムシは自然を感じるための最も身近な教材となっている。しかし多くの場合,採取された時点から飼育期間が短い,捕獲できる数が少ない,飼育中の変態を見ることが難しいなどの課題がある。このような課題を解決しうる教材として本研究ではカイコに着目した。カイコは日本で最も古くから幼稚園において取り入れられている教材であると同時に,生育の様子をつぶさに観察できるものである。そこで本研究では,幼稚園におけるカイコの飼育活動について保育者の記録から検討する。そして,小学校教育への繋がりを考慮に入れ,カイコの教材としての意義を検討するものである。本研究では,2年間,2箇所の幼稚園において654名の年長児の32,126件の記録から検討した。その結果,カイコに関するエピソードを265件抽出した。そして抽出したエピソードをkJ法で分析した結果,「カイコとの関わり」,「カイコを通した人との関わり」,「感触」,「気付き」,「絵本からの学び」といった上位カテゴリーに分類された。そして,個々のカテゴリーとエピソードからカイコ教材について,以下のような意義が見いだされた。1)人との相互作用の中で,カイコに興味をもつことができること 2)他のムシに比べて,生育の各段階において,手に乗せるなどの感触を楽しむことができること 3)カイコそのものが完全変態をするムシの中でも変化に富むため,子どもたちが気付く頻度や可能性が高いことから,気付きの質を深めることができること 3) 絹糸を紡ぐことができるため,生産性のある飼育活動ができること 4)カイコの絵本を読むことで,調べ学習等の探求活動に結びつく可能性があることこのように,カイコについては,他の飼育動物に無い,幼児教育における意義が認められた。そして,カイコの教材の可能性と実践上の課題についても明らかにした。

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© 2011 日本理科教育学会
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