抄録
本研究は, 理科授業における社会的相互作用の活性化が, 自律的な学習の促進の鍵となるメタ認知および表象機能に及ぼす影響について検討した。具体的には, Anastasia(2009)が提起する個人のメタ認知に対する社会的レベルの影響を考慮したメタ認知の多面的モデルに着目し, これを理科学習の立場から捉え直した。その上で, Khan(2008)の提起する理科における協同学習を通じたモデル構築プロセスに関する理論を援用して, 社会的相互作用の活性化を通じたメタ認知の機能拡充のための教授論的視点を構想し, 高等学校化学の授業を事例に有効性を検証した。
結果として, まず課題解決に関わる自分なりのモデル構築を実施することで, 既有の表象ネットワークを稼働させた個人内部でのメタ認知の活性化が見られた。その上で, 協同的な学習による課題解決を通じたメタ認知の相対化の過程の成立によって, 子どもは表象ネットワークの修正や再構成を行い, メタ認知的モニタリングとコントロールの質を高めていることが明らかとなった。協同的なモデル構築過程では, 教師による的確なモデル評価を通じた足場作りが不可欠であった。