抄録
近年, 身近な自然事象への興味・関心を高める学習活動の充実が理科教育に期待されている。しかし, 学習者が個々に身近な自然事象について実験・観察や簡易なものづくりの活動を行いながら探究する学習活動は依然少ない。このことから, カエデの翼果の落下運動について, 探究する態度を育みさらに興味・関心を高めることを目的として, 高校生を対象にトウカエデの翼果の落下実験とその模型を作る一連の学習活動を実践した。実験教材として, 身近で容易に入手可能なトウカエデの翼果とバドミントン用のシャトルコックを利用した。落下実験を繰り返す中で, 生徒は結果に見られる規則性を意識しながら適切に条件を制御して実験・観察を行うようになった。生徒は, 小さな翼を持った翼果が自由落下した後に回転し始め, その後ほぼ等速で落下することを見出した。次に, 生徒はシャトルコックを用いて, 翼果とほぼ同じように落下する独自の模型を試行錯誤しながら作製した。本活動の結果, 多くの生徒は, 妥当な方法で実験, 観察を行いながら探究するようになり, 翼果とその模型作りに関する興味・関心を高めたことが分かった。本活動では, 特殊な装置や技術を用いず, 翼果という身近な生物試料を物理の実験材料として利用した。したがって, 生物専修の教師が物理を教える, あるいは逆に物理専修の教師が生物を教える場合など, 理科授業の多様な状況においても本教材は容易かつ安全に利用できる可能性がある。