理科教育学研究
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資料論文
戦前の昆虫標本の理科教材としての有用性
―東京都立井の頭恩賜公園産の昆虫標本を利用して―
相場 博明
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2019 年 60 巻 1 号 p. 195-203

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抄録

本校(慶應義塾幼稚舎)は明治7(1874)年創立の私立小学校であり,古い教材が残されている。その中に,昭和6(1931)年頃に採集された東京都立井の頭恩賜公園産の昆虫標本が102種保管されている。現在の東京都では,絶滅あるいは絶滅危惧種と指定されているものが多数含まれている。そこで,小学校4~6年生にそれらの昆虫の名前を知っているか,また,現在はなぜ減少してしまったのか,その理由を問う調査を実施した。その結果,多くの児童はそれらの昆虫の名前を知らず,またその減少の原因についてもさまざまな意見を持っていることがわかった。なお,比較のために大学生70名にも同じ調査を行ったところ,小学生と同様な認識率であった。そこで,これらの標本を用いて,小学校4年生139名を対象に環境の変化と昆虫のかかわりについて考えさせる授業実践を試みた。その結果,児童は昆虫の生態や特徴を調べて議論を重ねることで,環境の変化が昆虫に及ぼす影響について活発な議論のある授業を構築させることができた。このことから,戦前の昆虫標本は理科教材として有用な教材であることがわかった。さらに新学習指導要領(文部科学省,2017)で新たに追加された第6学年の「人と環境」においても,この教材は利用可能であることが示唆された。

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© 2019 日本理科教育学会
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