2025 年 65 巻 3 号 p. 523-534
これまでの小学校理科学習では,問題解決を重視し,多くの先行研究が行われてきた。しかし,平成30年度及び令和4年度の全国学力・学習状況調査において,問題解決の力に課題があると指摘されている。本研究では,その原因を,学習者が問題解決のために必要な方法を学んでも,それを学習方略として他の状況に転移させて活用できる状態にまで至っていないことにあると考えた。そこで,これを解消し,場面問題解決の力を高めるための学習方略獲得型段階的理科指導法(以下,方略獲得指導法と呼ぶ)を開発し,その効果を測定した。方略獲得指導法とは,単元の目標を目指すだけでなく,学習方略の獲得も同時に目指し,学習者の自律的な場面問題解決を可能にさせるための指導法である。理科学習の問題解決には,学習指導要領に示されている問題解決の過程をたどる問題解決と,問題解決の過程の各場面に対応した問題(例えば予想や仮説の設定場面では予想する,検証計画の立案場面では実験方法を考える等)を解決する問題解決という2つが存在するが,場面問題解決とは後者の問題解決のことである。場面問題解決の力とは,自律的に場面問題解決を行う力のことであり,対峙している問題が問題解決の過程におけるどの場面であるかを類別し,その場面問題を解決するために必要な学習方略を適切に選択・活用し,習得した学習方略を他の単元に転移して活用する力のことである。方略獲得指導法による指導実践を行った結果,既習単元だけでなく未習単元についても,学習方略を用いて適切に場面を類別し,それぞれの場面に適した作戦を用いて,予想したり実験方法を立てたりすることができた児童の割合が増加した。