抄録
アトピー性皮膚炎の増悪因子の一つとして黄色ブドウ球菌は重要である。日常生活を営む限り,皮膚に定着している黄色ブドウ球菌を完全に除菌して,無菌状態に保つことはできない。角層内でバイオフィルムに包まれて静止期にあるような定着(colonization)した黄色ブドウ球菌に対しては,抗菌療法も消毒も十分な効果発現は期待できない。アトピー性皮膚炎に対してポピドンヨードなどの抗菌療法が試みられ,スタンプ法による菌数減少や,臨床的有用性が報告されているが,その結果の解釈は慎重に検討され,再評価されなくてはならない。皮膚を清潔に保ち,適切なアトピー性皮膚炎治療を実施することにより,黄色ブドウ球菌を増えすぎないようにコントロールして,正常細菌叢のバランスを崩さずに,生体が持つ本来の角層バリア機能や,抗菌ペプチド発現を取り戻すような治療のストラテジーが理想的と思われる。