埼玉医科大学雑誌
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原著
新しい鼓膜形成術(重層留置法)の検討
中嶋 正人 松田 帆新藤 晋上條 篤加瀬 康弘池園 哲郎
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2021 年 47 巻 2 号 p. 82-89

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抄録

背景:鼓膜穿孔の閉鎖のために様々な手術が開発されてきた.一般に普及した方法として,湯浅によって開発された鼓膜形成術接着法(以下接着法)がある.穿孔縁を新鮮化したのちに結合組織を中耳側から組織接着剤で固定する方法である.従来の鼓室形成術と比較して,接着法のメリットはその低侵襲性にある.接着法の欠点は結合組織が鼓室側へ脱落することであり,結果的に約20%に再穿孔が生じる.接着法の聴力改善率は約80%と報告されている.
方法:我々は,接着法を改変し,新しい方法「鼓膜形成術重層留置法」を開発し2011年より実施してきた.この手術法は,組織接着剤を必要とせず,鼓室内に十分な量の結合組織を重層的に留置し鼓膜裏面に十分接着させ,鼓室側への脱落が起きないように工夫することで,良好な結果が得られてきた.本研究では,術後成績の詳細な評価を行うために2015年1月から2015年12月までに手術を行い,1年以上の観察を行った61例68耳をレトロスペクティブに検討した.
結果:鼓膜穿孔閉鎖率と聴力改善率はそれぞれ96%と94%であった.この成功率は,接着法などの従来法と比べ同等以上であった.さらに,この術式では,大穿孔の症例も高率に閉鎖した.術後CT では留置した結合組織が縮小し,最終的に吸収されていた.術後の聴力の改善も良好で,本術式は,鼓室腔の含気と聴力に悪影響を及ぼさないことが明らかとなった.
結論:鼓膜穿孔に対し,鼓膜形成術重層留置法という極めて単純な鼓膜形成の術式を開発し,良好な鼓膜穿孔閉鎖率と聴力改善率が得られた.本術式は大穿孔例での同時手術も可能,組織接着剤は不要といった利点がある.

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2021 埼玉医科大学 医学会
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