本稿では中枢神経系による手の感覚受容や運動制御のメカニズムについて,著者らの研究成果を紹介しながら解説する.実験はヒトと手の筋骨格構造が近似しているマカクサルを用い,サルに把握や手首運動を訓練した後,神経生理学的な手法で大脳皮質や脊髄の神経細胞の活動を直接記録する方法を用いて行った.その結果,脊髄にある介在神経が把握運動時に使われる指の組み合わせで用いられる筋をまとめて興奮させている事が分かった.また,運動時の末梢感覚は単に受動的な信号でなく,大脳皮質などからの運動指令によって積極的に調節されており,それが感覚情報処理の初期段階でシナプス前抑制を用いて行われている事が分かった.