バイオメカニズム学会誌
Print ISSN : 0285-0885
解説
遺伝子組み換え動物実験とN = 1 研究
永富 良一
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2018 年 42 巻 1 号 p. 43-46

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抄録
医学生物学領域ではバイオテクノロジーの発展に伴い,タンパク分子の機能や役割を解明するために,特定のタンパク分子の遺伝子を欠損したノックアウトマウスを作成し,その表現型や病態を観察する動物実験が幅広く行われている.特定のタンパク分子の遺伝子を欠失させタンパク分子欠失マウスと欠失していないマウスとの比較が行われるが,そのためにはその他の遺伝子に差異がないことが必要である.マウスをこのような実験に用いる理由はマウスが長く実験動物として使用され品種改良を経て,遺伝学的に均質な性質を持つ個体,すなわちほぼ同一の遺伝子を有するマウスを多量に生産できるようになったからである.これはヒトに置き換えて考えると一個人の分身を複数用意し,一部の遺伝子を欠損させたときとさせない場合とで何が違ってくるかを観察することになる.しかし遺伝子のセットが異なる別な個人で同じことが起こる保証はない.実際にマウスの系統が異なると同一の遺伝子欠損でも異なる反応が起きる例が知られている.すなわちマウスを用いた遺伝子組み換え実験はN = 1 研究である.
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© 2018 バイオメカニズム学会
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