抄録
被験者が現実には安静にしているにもかかわらず,何らかの感覚入力によって自らが運動しているように知覚することを「自己運動錯覚」という.我々は,仮想的身体の運動映像を視覚入力することで自己運動錯覚を誘導するシステムを開発してきた.そのシステムでは,他の刺激(他動運動,電気刺激,など)と共に連合刺激を実施することが可能であり,さらに生体信号に基づいて仮想的身体の運動映像を制御できるため,運動主体感を誘導することができる.これまでに明らかにしてきた生理学的影響に関する研究結果から,運動錯覚は中枢神経損傷が起因して感覚や運動麻痺がある場合のアプローチとして有効であることが推察できる.このため現在は,発症から6 ヶ月以上を経過した慢性期の脳卒中片麻痺患者で重度の上肢運動麻痺を呈する症例を対象に臨床試験を進めている.本稿では,現状で得られた臨床成績を供覧する.