「一億総活躍」政策は,さまざまな限界をもっているとしても,プロ・レーバーの要素をもつ「リベラル」な労働社会政策として受け止めることができる。その実際の成果がどのようなものとなるかは,今後の展開を見定める必要がある。現状では,それが日本の雇用制度や労働市場を大きく変えるという見方から,さほどの影響をもたないという見方まで,多様な評価があり,それらの根拠を明らかにしておくことが必要である。その際,大企業セクターだけでなく,日本の労働市場全体を見渡し,その全体に及ぼす影響を把握することが重要である。本報告では,上記の指摘を行った上で,「一億総活躍」政策が国の経済政策全体を牽引・主導する中核的政策たりうるかについても検討した。暫定的結論は,否定的である。公共投資分野では「旧ポピュリズム」の動きが目立ち,地域経済格差対策分野では「新ポピュリズム」と呼ぶべき動きがあらわれている。経済政策にはイデオロギー的一貫性がなく,結果的に支持率志向の「新ポピュリズム」の方向に流される傾向にあるようにみえる。