2020 年 12 巻 1 号 p. 42-54
本稿は,2000年代以降の重要な教育政策のひとつとして推進された「キャリア教育」に着目し,この教育理念が有するアクティベーションとしての側面(「基礎的・汎用的能力」の育成を通じて一人ひとりの「社会的・職業的な自立」をうながすという目的)を批判的に検討し,「権利論的キャリア教育論」を手掛かりとして,能力開発による「自立」と同時に「依存」可能なセーフティネットとしての社会形成を志向する教育論を提起した。そのうえで,この教育論を教育実践に具体化するため,経済的見返りよりも社会連帯の視点を強調するソーシャル・アクティベーションの考え方を初等中等教育のカリキュラムや学級経営論と関連づけて,実践的な試論を展開した。以上の議論から,より多くの人々が「自立」=「依存」しうる社会モデル・人間モデルを教育の理論的基盤に据える必要性と,社会的投資戦略として教育が負いうる役割の限界と可能性が示唆された。