我が国で最初に民営化された公的対人サービスの仕組みとしての介護保険制度に着目し,市場化と管理主義のバランスが事業者に及ぼす影響を,社会学領域の組織理論に基づき,事業者の戦略的退出の視点から検討した。使用したのは,2005年から2018年に東京都内2区の通所介護事業者と訪問介護事業者を対象に実施したパネル調査のデータである。その結果,管理主義が強調される介護保険制度においては,戦略的退出による適応をはかる事業者と継続して存在する事業者が存在し,それら多様な事業者間の相補的関係性が示唆された。また,このように異なる事業者から構成される多元性は,法人格と,法人格以外の組織特性に基づく重層的な構造から成る様子がうかがわれた。得られた観察結果についてサービスの安定性の視点から考察するとともに,今後の課題を整理した。