福祉国家の展開過程において公共セクターは女性をよりよい雇用へと結びつけ,ジェンダー平等を促進する役割を果たしてきた。しかし,緊縮財政政策と世界的な景気後退によって女性の多い社会サービス分野の再編が進んでおり,公共セクターとジェンダー平等との関係は変化しようとしている。本稿では供給主体の多元化と市場化政策によって再編された日本の保育分野に着目し,公共セクターが政策実行者としても雇用者としてもケアワークの労働力編成に対するジェンダー変革的機能を弱化させ,ジェンダー不平等を拡大させていると主張する。第一に,保育士の社会的経済的評価の低下は2000年代以降に顕在化したものであり,公共セクターの保育サービス供給を縮小させる過程で公務員保育士の集団的交渉力を弱化させつつ保育士をコストとして削減対象としていったことを論じる。第二に,大阪市の保育士給料表を事例として公共セクターが積極的にジェンダー格差を拡大していったことを明らかにする。