抄録
リチウムイオン二次電池の充電時の熱安定性は、正極に起因するところが大きい。そのため、高温環境下における正極活物質の変化を正確に捉えることは、リチウムイオン二次電池の安全性向上を図る上で非常に重要な技術である。高温環境下での正極活物質は複数の結晶構造をもち、また結晶構造内を異なる元素が同じサイトを占有しているため、構造選択的かつ元素選択的な評価が求められている。今回 X-ray Absorption Fine Structure(XAFS) 測定を行い Cauchy-Wavelet 変換を用いて隣接元素種を迅速に推定できることを確認し、Diffraction Anomalous Fine Structure(DAFS) 測定の検討を行い、構造選択的に各元素の化学状態を推定できる可能性を確認した。今回の結果から、同じサイトを Ni、Co、Mn で共有している正極活物質において、高温環境下での結晶構造変化に伴う遷移金属元素の還元は、主に Ni の層状岩塩型からスピネル型への構造変化により担われているという結論が得られた。