本稿の目的は, 監視/監査という形態で実現される現代の情報社会におけるリスク制御の様相について, 再帰的近代化論およびルーマン派システム理論の視点から, 理論的に考察することである。監視/監査という2つの概念は, ともに情報社会の本質的特性であるリスク産出およびリスク制御という相互に表裏一体をなす2つの活動を記述・分析するうえで鍵となる概念である。
再帰的近代化論は, リスク産出の拡大とリスク制御の可能性の拡大という両側面を, 現代社会の本質的な二律背反として捉える。またルーマン派システム理論は, 機能分化した複数の機能システムによって構成される近現代社会にとって, リスクの発生と増大が不可避的・必然的なものであるとみなす。とくに, 情報システムに代表される現代の技術システムは, それ自体が新たなリスクを産出すると同時に, リスク制御の可能性の条件をも産出するという両面性をもつ。監視/監査という2つの活動は, そのような情報システムの両面性と相関しつつ, システムの「相補的観察」(K.P. ヤップ)という形態で, 情報社会におけるリスク制御の可能性を具体化していると考えられる。