科学・技術研究
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総論
強酸性環境を中和する酵母
浦野 直人長岡 真太郎岡井 公彦
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2018 年 7 巻 1 号 p. 27-33

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抄録
筆者らは強酸性水圏由来の微生物群から、生息環境を中和する機能を持つ新奇酵母(アルカリ化酵母と称する)を発見した。本報ではアルカリ化酵母による酸性水中和機構、生態、環境に優しい中和水製造法を総論する。日本では、群馬県草津地方の吾妻川上流や秋田県仙北市の玉川上流等pH 1-4の強酸性淡水圏が点在しており、当該水圏では通常、多細胞生物(魚介類や植物など)の生息は観察されない。そこで、筆者らが単細胞生物の生息調査を行ったところ、原核生物(細菌)は検出されず、真核生物(酵母)が主たる微生物相を形成していた。単離した酵母は、全てpH 1-3の強酸性下で増殖可能な耐酸性菌であり、それらの中にアルカリ化酵母が存在した。アルカリ化酵母を酸性培地で培養すると、細胞がアミノ酸のアミノ基を切断してアンモニウムイオンNH4+を放出することで、酸性液を中和していることがわかった。次に、一般の中性淡水圏にてアルカリ化酵母の探索を行ったところ、単離した耐酸性酵母の9.4 %がアルカリ化酵母であった。酵母の28S rDNA D1/D2ドメイン塩基配列解析を行ったところ、中性水圏由来のアルカリ化酵母中に、筆者らが強酸性水圏から単離して登録済の塩基配列と同一の配列を持つ株が複数存在した。これらの結果から、アルカリ化酵母は強酸性水圏に偏在するのではなく、中性水圏にも広く生息すること、そして両水圏由来のアルカリ化酵母とも、酸性環境下にて水を中和する機能を発揮することがわかった。更に、アルギン酸ゲルビーズに包括したアルカリ化酵母をカラム内に充填して、酸性水(pH3.6)を流入したところ、酵母が中和水(pH7前後)を連続的に生産した。この中和水をゼオライト充填カラムに通したところ、pH 7近傍を維持した状態で水中のNH4+濃度を著しく減少させた。こうして、強酸性水から環境に優しい中性水を製造できるバイオリアクターを構築することができた。
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