現代社会学理論研究
Online ISSN : 2434-9097
Print ISSN : 1881-7467
在日の物語と異邦人同士の交流
『断食芸人』から
郭 基煥
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2007 年 1 巻 p. 130-145

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抄録

在日は世代交代が進む中で、日本への定住化傾向がますます明瞭になってきた。そういう中で、在日のアイデンティティは祖国か日本かという従来の二極のみならず、日本人との共生を目指す共生志向や個人的成功を第ーに考える個人志向など様々な方向性が現われだしたことが指摘されてきた。また最近では自らの中の複数のアイデンティティを認める重要性を訴える議論も現われている。
しかし本稿ではむしろアイデンティティが問題になるという在日の共通の状況に着目し、アイデンティティが問題化される最初の契機である、〈地平〉としてあった現に生きている日本社会が異国であることを知るという経験/衝撃について精査することで、特に二世以降の在日の、特殊な意味での異邦人感覚を描出することを主要な目的とする。
二世以降の在日にとって祖国は経験の彼方にある。しかし、こうした未規定の祖国はアイデンティティが問題になる限り、当人から切り離せるものではない。その意味で在日は、未規定な祖国という他者と共に生きていると考えることができる。その場合、もしも在日が、このように他者性と共に生きるという線を越えて、それと同一化するとき、その在日は同時に日本社会と切り離された他者たらざるを得ないだろう。本稿はここにあるジレンマの構造をカフカの『断食芸人』の解読を通して明らかにする。
しかしこうした異邦人はただ異邦人であるだけなのだろうか。この異邦人はその孤独ゆえに常に別の異邦人へと赴くように駆り立てられるのではないか。そしてもしもこのようにして異邦人同士の交流というものが結ぼれたとしたら、それはその人が絶縁した社会に何事かをもたらすのではないのだろうか。

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© 2007 日本社会学理論学会
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