抄録
上咽頭は鼻孔から流入した吸気が通過する最初の免疫学的関所で,感冒等の急性上気道炎時における炎症の悪化は必発である.上咽頭は健常人においても樹状細胞,活性化リンパ球が豊富で,鼻咽頭関連リンパ組織(NALT)として特に自然免疫を介した感染防御において重要な役割を果たす.IgA腎症患者においては高頻度に自覚症状を欠いた重度の慢性上咽頭炎が存在し,同疾患での上咽頭における自然免疫の慢性的活性化状態が示唆される.急性咽頭炎に伴う肉眼的血尿はIgA腎症の特徴的症状であるがこの現象は扁摘後の症例にも認められ,上咽頭等の口蓋扁桃以外のNALTの更なる活性化が肉眼的血尿の責任病変である糸球体血管炎の増悪に関与していることを示唆している.本稿では感冒時における腎症悪化の機序をCX3CR1/fractalkine interactionを介したepipharynx-kidney axisの観点から概説する.さらに,糸球体性血尿を呈するも蛋白尿が陰性でまだ腎生検の適応にならない潜在的IgA腎症の段階における上咽頭擦過療法の有用性に関する私見を述べる.