日本水産学会誌
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日本水産学会85年史
発刊に寄せて
塚本 勝巳
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2018 年 84 巻 The_85th_Anniversary_of_JSFS 号 p. Svii

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抄録

 日本水産学会は2017年に創立85周年記念事業を行い,その一環として日本水産学会85周年史を編むことにした。日本水産学会誌の第84巻特別号として発刊された本巻はその成果である。内容は,「日本水産学会85年の歩み」と題された本会の歴史に始まり,次いで今回の「創立85周年記念事業」の説明へと続き,その後計10章に亘って水産学の様々な分野の研究が詳述されている。また最終章には資料集の部分が設けられ,貴重な情報が満載されている。編集の労を執られた85年史編集委員の各位と執筆者の方々のご努力に心から感謝する。

 本巻を通読すれば,学会85年の歴史を振り返ることができる。先人たちの努力と挑戦を知ることができる。また現在水産学会が抱える諸問題へ対処の糸口をみつけることもできるかもしれない。学会とは,「学者・研究者たちが自由な立場で互いの連絡,知識や情報の交換,研究成果の公表のために組織したもの」である。しかし,これは確かに学会機能の核心ではあるが,水産学は応用科学なので,当然のことながら水産業への貢献が求められる。今はこのほかにも公益性や一般社会への貢献も問われる時代になった。学会の役割が多様化している。

 日本学術会議等が運営する学会名鑑によると,2014年11月9日の時点で我が国には1,176の学会が存在している。このうち多くの学会で会員数の減少が問題になっている。伝統のある大きな学会でも会員数の減少に歯止めがかからないという。日本水産学会も例外ではない。学会そのものの存在意義が問われている。ネットで何でも情報がとれる時代になったことも学会の必要性が低下した原因かもしれない。さらに,水産学の守備範囲が著しく広いことが,一つの学会としての存在感をぼやけさせ,求心力を削いでいる嫌いもある。水圏生物に関係する全ての事象を扱わなければならない水産学の宿命かもしれない。

 これに対し学会は,学会員の多様なニーズを詳しく分析してきめ細かく対応したり,実際の水産業の現場に根ざした斬新な応用研究を奨励・発掘したりして,会員サービスの強化と水産研究の方向性の見直しを図ることが重要である。水産学会そのものの魅力と存在意義を改めて自問してみることが今必要になってきた。また一方で,実際の水産業に携わる人々を準会員として招き,自由な意見交換を通じて問題意識を共有することも重要である。学会と産業界の距離を縮めるのである。

 そもそも学会の起源は,中世・ルネサンス期のヨーロッパにおいて保守的な大学のやり方に反発した知識人が集まり,自由な情報交換の場として始まったとされる。自然科学で最初の学会は1660年に設立されたイギリス王立協会で,あのニュートンも会員であった。日本水産学会も,そこに行けばいつも同好の士がいてワクワクするような議論ができる,夢と興奮に満ちた学会であればよいと思う。この日本水産学会85周年史の発刊を機に,私たちも一度学会の原点に思いをはせてみよう。そして,次の100周年史ではさらに多くの発展の歴史を書き加えられるようにしたい。

 平成30年9月

 公益社団法人日本水産学会

 前会長 塚本勝巳 

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