膵臓
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特集:生活習慣と膵疾患
2型糖尿病に発症する膵癌の臨床的特徴
古川 正幸李 倫学植田 圭二郎舩越 顕博
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2012 年 27 巻 2 号 p. 145-152

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抄録

2005年1月~2011年6月までに,当センターで組織学的に腺癌と診断された234例の膵癌症例の中で,診断の5年以上前から,2型糖尿病として治療歴のある25例について,それ以外の209例との間で,臨床像,検査所見,生存期間などをレトロスペクティブに比較検討した.
2型糖尿病先行膵癌症例の概要は,次の通りであった.男性17例,女性8例,年齢の中央値が68歳(59~86),糖尿病の罹病期間は,10年[6~20.5](中央値[25%~75%]),膵癌診断時の空腹時血糖が155mg/dl [124~214](中央値[25%~75%]),HbA1cが8%[6.7~8.85](中央値[25%~75%]),糖尿病の治療としては,投薬なしが6例,経口血糖降下剤が13例,インスリンが6例であった.三大合併症として,網膜症3例,腎症2例が認められた.
2型糖尿病先行膵癌症例は,膵癌発症の年齢が高く,心血管疾患の合併が多かった.また,膵癌診断時に,無症状の症例が56%も認められ,有意に高頻度であった.通常の膵癌では,診断時無症状例の方が,有症状例に比べ,Stage III以下の症例が多く,遠隔転移を伴う例が少なく,腫瘍最大径も小さく,根治切除率も有意に多かったが,2型糖尿病先行膵癌症例には,このような差は認められなかった.2型糖尿病から発症してくる膵癌では,その多くが,診断時に無症状であることが,大きな特徴であり,無症状であっても進行していることが多い.また,膵癌全体においては,Stage III以下の比較的長期予後が見込める症例の半分以上(56%)が,無症状の状態で診断されており,2型糖尿病のようなハイリスク群においては,定期的に画像検査や血液検査を行い,そのわずかな変化や異常を捉え,診断に結びつけることこそ重要なポイントであると考えられる.今回の研究は,あくまでも,がんセンターという特殊な1施設での,後ろ向き観察研究のデータであり,症例数も少ない.今後,多施設による大規模な観察研究や前向き研究が必要である.

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© 2012 日本膵臓学会
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