抄録
地球上における物質循環は,水や大気などの流体を媒体として生じることが大きいが,物質移動を活動的に誘発させるのは生態系を含む炭素循環であるといっても過言ではない.近年,流域圏と海域とのつながりが重要視されてきており,森林や河川などの一体的管理が課題となっている.課題に対し,本研究では天然の水溶性腐植物質であるフルボ酸をトレーサー物質として扱い,他の物質輸送との関係を評価することにより流域圏と海域,特に境界域に位置する河口干潟の役割について解明することを目的とした.
本報では,前報の小櫃川河口干潟後背湿地での広域調査の結果をもとに,フルボ酸-鉄の流出濃度が高いエリアに限定して,ヨシ植生量と土壌呼吸量からの土壌系内での正味一次生産量(NPP),有機物含量,腐植物質含量,鉄含量の評価に加え,同エリア内のクリークに関しての潮汐にともなうフルボ酸-鉄の流入出について詳細に調査した.年間NPP量は98 t-C y-1であり,人工スギ25,000本が年間に固定できる炭素量に相当する.表層0.20 mまでの土壌有機炭素量とNPP量との間には正の相関性があり,腐植物質として土壌中に堆積していることが確認された.土壌中の鉄は腐植物質とともに地下に浸透し,さらに潮汐変動にともないフルボ酸‐鉄錯体を形成しながら小櫃川本流を介して海域に倍増して流出していることがわかった.