日本海水学会誌
Online ISSN : 2185-9213
Print ISSN : 0369-4550
ISSN-L : 0369-4550
71 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
巻頭言
特集:「フロンティア研究論文」
報文
  • 田中 良平, 鈴木 祐麻, 新苗 正和
    2017 年71 巻2 号 p. 63-70
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー
    ポリアミド系複合逆浸透膜(RO膜)の活性層にはカルボキシ基が存在し,このカルボキシ基の一部が脱プロトン化することにより活性層は負電荷を有する.本研究では2種類の市販RO膜を対象とし,活性層のごく表面(~数nm)の負電荷密度と平均電荷密度をそれぞれX線光電子分光法(XPS)とラザフォード後方散乱分光法(RBS)を用いて測定した.そして,これら2種類の方法で測定した負電荷密度から活性層の均一性を評価し,さらに,pH 5.4とpH 10.4における負電荷密度の違いを踏まえることによりpH 5.4における塩化物イオンの除去率からpH 10.4における除去率の予測を試みた.その結果,均一な活性層を有するRO膜についてはpH 10.4における塩化物イオンの除去率を精度よく予測することができた.しかし,不均一な活性層を有するRO膜については,ごく表面の負電荷密度を用いて算出した予測値は実際の除去率より高い値を示した.これらの結果から,不均一な活性層を有するRO膜については,不均一性を考慮した溶質透過モデルの構築が必要であることが分かった.
  • 田中 良平, 勇 有弥, 鈴木 祐麻, 新苗 正和
    2017 年71 巻2 号 p. 71-77
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,ポリビニルアルコール(PVA)コーティングによる表面親水化がポリアミド系複合RO膜による塩化物イオンおよびホウ酸の除去率に与える影響を検討することである.PVA水溶液をろ過することで市販のRO膜(ESPA2膜)の表面をPVAでコーティングし,さらにPVAをグルタルアルデヒドで架橋することによりPVA-ESPA2膜を作製した.ESPA2膜およびPVA-ESPA2膜を用いてろ過実験を行った結果,PVA-ESPA2膜の水透過性は39 %低下した.しかし,PVAのコーティングの有無に関わらず,同じ水流束で比較すればPVA-ESPA2膜はESPA2膜とほぼ同じ溶質除去率を示した.つまり,PVAコーティングはこれらの溶質の除去率に影響を与えないことが分かった.
  • ―盤洲干潟後背湿地における正味一次生産量と潮汐にともなうフルボ酸-鉄の流入出特性―
    矢沢 勇樹, 池野 昂貴, 杉本 篤志, 城 秀隆, 武田 弘
    2017 年71 巻2 号 p. 78-91
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー
    地球上における物質循環は,水や大気などの流体を媒体として生じることが大きいが,物質移動を活動的に誘発させるのは生態系を含む炭素循環であるといっても過言ではない.近年,流域圏と海域とのつながりが重要視されてきており,森林や河川などの一体的管理が課題となっている.課題に対し,本研究では天然の水溶性腐植物質であるフルボ酸をトレーサー物質として扱い,他の物質輸送との関係を評価することにより流域圏と海域,特に境界域に位置する河口干潟の役割について解明することを目的とした. 本報では,前報の小櫃川河口干潟後背湿地での広域調査の結果をもとに,フルボ酸-鉄の流出濃度が高いエリアに限定して,ヨシ植生量と土壌呼吸量からの土壌系内での正味一次生産量(NPP),有機物含量,腐植物質含量,鉄含量の評価に加え,同エリア内のクリークに関しての潮汐にともなうフルボ酸-鉄の流入出について詳細に調査した.年間NPP量は98 t-C y-1であり,人工スギ25,000本が年間に固定できる炭素量に相当する.表層0.20 mまでの土壌有機炭素量とNPP量との間には正の相関性があり,腐植物質として土壌中に堆積していることが確認された.土壌中の鉄は腐植物質とともに地下に浸透し,さらに潮汐変動にともないフルボ酸‐鉄錯体を形成しながら小櫃川本流を介して海域に倍増して流出していることがわかった.
  • 増山 嘉史, 藤原 邦夫, 須郷 高信, 河合(野間) 繁子, 梅野 太輔, 斎藤 恭一
    2017 年71 巻2 号 p. 92-96
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー
    放射線グラフト重合法を適用して,市販のナイロン繊維を出発材料にして,強塩基性アニオン交換基をもつビニルモノマー,ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩(DMAPAA-Q)をグラフト重合することによって,一段階で新規アニオン交換繊維を作製した.溶媒に第一級アルコール(1-ブタノール)を用いて,グラフト率を78 %,これをアニオン交換基密度に換算すると2.1 mmol/g-dryまで向上させた.作製した強塩基性アニオン交換繊維のアルカリ安定性を調べ,1 M NaOH水溶液中,40 ℃で3 h浸漬させたとき,強塩基性アニオン交換基はほぼ分解しなかった.
  • 田中 良平, 原田 美冬, 鈴木 祐麻, 新苗 正和
    2017 年71 巻2 号 p. 97-102
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー
    逆浸透膜のポリアミド活性層にはカルボキシ基(R-COOH)が存在し,R-COOHが脱プロトン化(R-COO)することによりポリアミドは電荷を有する.そして,ポリアミド活性層の電荷密度は逆浸透膜の膜性能を決定する重要な物理化学的特長の一つである.しかし,電荷密度を測定する既存の手法はタンデム加速器などの大掛かりな装置を必要とする.このことを踏まえ,本研究の目的は水晶振動子マイクロバランス(QCM)を用いてポリアミド活性層の電荷密度を簡易に測定することである.R-COOの対イオンとしてCsを選択し,R-COOHが脱プロトン化してR-COO Csになる際の重量変化をQCMで測定することでR-COO濃度を求めた.その結果,本研究で得た電荷密度は既存の手法を用いて測定した結果とよい相関が得られた.つまり,本手法を用いれば,市販RO膜のポリアミド活性層の電荷密度を容易に測定できることが分かった.
Original Paper
  • 土屋 侑子, 和田 善成, 正岡 功士, 佐藤 敏幸, 岡田 昌樹, 日秋 俊彦, 尾上 薫, 松本 真和
    2017 年71 巻2 号 p. 103-109
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー
    本研究では,局所的なイオン濃縮場を創成できるマイクロバブルの気-液界面を結晶核化が進行する新規な晶析場として用い,製塩プロセスより排出される脱K苦汁からのドロマイト(CaMg(CO32)の製造を行った.脱K苦汁へCO2マイクロバブルの導入により,微細な気-液界面近傍での局所的なCa2+,Mg2+およびCO32-濃度の増加にともなうCaMg(CO32中のMg/Ca比の増大および微粒化が期待できる.本稿では,CO2気泡の微細化およびCO2モル供給速度がCaMg(CO32の生成速度およびMg/Ca比の増加速度に及ぼす影響を検討した.反応温度が298 K,pHが6.8の条件下で,製塩脱K苦汁に平均気泡径が40 - 2000 μmのCO2気泡を連続供給し,CaMg(CO32を反応晶析させた.その際,CO2モル供給速度を1.49 - 23.8 mmol/(l·min)の範囲で変化させた.結果として,気泡の微細化およびCO2モル供給速度の増大は1.0のMg/Ca比を有するCaMg(CO32微粒子の収率向上に有効であることを明らかにした.
Short Paper
Original Paper
  • 福士 惠一, 堀 昇平, 安村 玄太, 三船 聖晶, 浅井 俊博, 辻本 淳一
    2017 年71 巻2 号 p. 112-119
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/09/29
    ジャーナル フリー
    ミニトマト(Lycopersicon esculentum Mill)及びトマト(Solanum lycopersicum)栽培におけるクラゲ(Aurelia aurita)上澄み液の有用性について検討した.すなわち,ミニトマト及びトマト栽培において,ミズクラゲ上澄み液を定期的に栽培土壌に加えた.対象区には,クラゲ上澄み液の代わりに同量の水を加えた.また,トマト栽培では,比較のために海水処理区も設けた.ミニトマト,トマトを収穫後,果実重量,糖度,アスコルビン酸(AsA)濃度(トマトの場合は酸度)を測定した.その結果,ミニトマトの糖度及びAsA濃度は,クラゲ処理区では,対象区よりそれぞれ13,18 %高かった.ただし,果実重量はクラゲ処理区のミニトマトは,対象区のものより23 %軽かった.また,トマトの糖度及び酸度は,クラゲ処理区では,海水処理区よりそれぞれ16,15 %高かった.ただし,果実重量はクラゲ処理区のミニトマトは,海水処理区のものより19 %軽かった.ミズクラゲ上澄み液は,ミニトマト及びトマトの品質向上に有用であることがわかった.
リレーエッセイ(24)
feedback
Top