大気環境学会誌
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50 巻, 2 号
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あおぞら
総説
  • 井川 学
    2015 年 50 巻 2 号 p. 59-66
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    大気環境学会学術賞を頂いた我々のこれまでの霧や露に関する研究の概要を、ここにまとめて報告する。我々はアクティブおよびパッシブの霧採取装置を用いて丹沢大山をフィールドに研究を行ってきた。その結果、大山では主に硝酸を原因とする酸性霧の発生頻度が高いことが明らかになった。霧の特性はイベントごとに濃度や時間変動が大きく異なる。そこで、霧の特性に影響する大気汚染、標高や気象条件について明らかにした。また、霧と同様な微量湿性沈着物である露についても都市部の横浜をフィールドに、その特性の支配因子を明らかにした。山間部で発生する酸性霧は、樹冠への沈着量が極めて大きく、霧の発生する地点では立ち枯れが多く見られている。そこで、丹沢で枯れが顕著なモミやブナの稚樹を育て、疑似酸性霧の暴露実験を行い、葉のワックス層への浸食から始まる酸性霧の樹木への直接影響が確認された。また、オゾンの曝露実験も行い、酸性霧と高濃度オゾンとは相加的に影響することを明らかにした。現在は世界中で高濃度の汚染物質を含む霧や露が観測されているが、本来の霧や露は自然の恵みであり、その役割が果たされる環境を取り戻していきたいものである。
  • 島 正之
    2015 年 50 巻 2 号 p. 67-75
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    わが国では硫黄酸化物による大気汚染は改善されたが、自動車交通量の増加に伴い、二酸化窒素や浮遊粒子状物質による大気汚染が問題となり、特に交通量の多い大都市部の幹線道路沿道部における大気汚染の住民の健康への影響が憂慮されている。千葉県で行った疫学研究では、学童の喘息症状の有症率および発症率は幹線道路沿道部において高かった。アレルギー素因等の関連要因を調整しても沿道部における喘息の発症率は統計学的に有意に高く,大気汚染が学童の喘息症状の発症に関与することが示唆された。その後、環境省が実施した大規模な疫学調査(そらプロジェクト)の学童調査では、自動車排出ガスの指標として推計された元素状炭素(EC)の個人曝露量と喘息発症との有意な関連性が認められた。近年注目されている微小粒子状物質(PM2.5)の健康影響については、比較的低濃度であっても短期的曝露により喘息児の肺機能の低下や喘鳴症状の出現との関連が認められた。喘息による救急受診は大気中オゾン濃度との関連が認められたが、PM2.5との関連は必ずしも明確ではなかった。今後はPM2.5の成分や粒径分布、さらには発生源と健康影響の関連を明らかにすることが望まれる。大気汚染に関する疫学研究には健康影響評価だけでなく、精緻な曝露評価が必要である。今後は国内外で様々な分野の研究者が協力して、大気汚染の健康影響を解明するための共同研究が活発に行われることを期待したい。
  • 茶谷 聡
    2015 年 50 巻 2 号 p. 76-84
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    非線形性を伴う複雑な光化学反応を経て生成されるオゾンや二次粒子成分の濃度低減策を検討するためには、3次元領域化学輸送モデル、3次元領域気象モデル、前駆物質排出インベントリを組み合わせた、3次元領域大気質シミュレーションが有用である。筆者らは、日本をはじめ、中国、インド、さらには東・南アジア全域を対象とするシミュレーションを構築し、汚染物質の濃度低減策の立案に資するさまざまな解析を行ってきた。しかしながら、シミュレーションによる汚染物質濃度の再現性は十分ではなく、排出インベントリやモデルに課題が残されている。その課題解決を図りつつ、大気汚染だけではなく気候変動なども含めた大気環境負荷を抑制するための方策の立案に、シミュレーションが実際に役立てられることが期待される。
  • 伏見 暁洋
    2015 年 50 巻 2 号 p. 85-91
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    大気中の微小粒子(粒径2.5 μm以下)やナノ粒子(粒径50 nm以下)は、人の健康に悪影響を及ぼすことが懸念されており、その起源や大気中での動態を明らかにすることが求められている。そのためには粒子の化学組成を知ることが重要だが、ナノ粒子は採取できる試料量が非常に少ないため、組成分析のためには、高感度な分析法が必要であった。従来、粒子の有機成分分析には溶媒抽出法が用いられてきたが、この方法では微量なナノ粒子中の成分を検出するのは難しいため、加熱脱着による全量導入を用いた大幅な感度改善が必須と考えられた。本総説では、著者らが取り組んできた、加熱脱着ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)による高感度有機分析法の開発の経緯や同法に基づくナノ粒子の測定と起源・動態解析について、周辺の研究の動向をふまえ概説した。この中では、自動車から排出されるナノ粒子、加熱脱着GC/MSの特徴や限界、分析条件の最適化、GC×GC等による高度化、ナノ粒子への適用例、そして分析結果に基づくナノ粒子の起源・動態解析について紹介した。微小粒子の起源・動態に関する研究例についても簡単に解説した。
〔学生・若手研究者の論文特集(2)〕
ノート
  • 中島 虹, 高橋 日出男
    2015 年 50 巻 2 号 p. 92-99
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    関東平野南部における光化学オキシダント(Ox)高濃度域と海風風系との関係を解析した。まず、1990年から2011年の7、8月における海風日を抽出した。Ox日最高濃度に対する主成分分析により、海風日を領域全体でOx日最高濃度が高く、かつその濃度が北側で高い日をType 1、南側で高い日をType 2とした。Type 1では相模湾や東京湾からの海風前線はType 2と比較して早い時刻に侵入した。Type 1、2とも、Ox高濃度域は下降流に伴う上空からのOx供給が考えられる海風前線の内陸側に位置した。海風前線が通過した地域では負のOx移流量を示し、海側から低いOx濃度の空気が供給された。そのため、いずれの場合も日最高Ox濃度の出現時刻は内陸ほど遅れる傾向にあり、Ox高濃度域は海風前線より内陸に位置したが、Ox高濃度域の位置は海風前線の侵入の遅速により異なった。Ox高濃度域は海風前線の侵入が速やかなType 1では対象領域北部に、遅延するType 2ではType 1よりも南側に現れた。Type 1の沿岸付近では、速やかな海風の侵入によりOx濃度の上昇が抑制されたと考えられた。以上から、Ox日最高濃度の分布には、関東平野南部の海風風系の違いによる海風前線侵入の遅速が関わっていることが明らかにされた。
  • 小川 智司, 大河内 博, 緒方 裕子, 梅沢 夏実, 三浦 和彦, 加藤 俊吾
    2015 年 50 巻 2 号 p. 100-106
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    自由対流圏高度の大気中ガス状元素態水銀 (Gaseous Elemental Mercury; GEM) のバックグランド濃度と越境大気汚染の影響を明らかにすることを目的として、自由対流圏高度に位置する富士山頂(標高3776 m)で2014年7月14日から20日、8月22日から25日に集中観測を行った。また、大気境界層上部の富士山南東麓太郎坊(標高1284 m)、地上部都市域の新宿、地上部郊外域の加須で同時観測を行った。日中の大気中平均GEM濃度は富士山南東麓(10.1±7.70 ng/m3n=19)、富士山頂(3.67±0.744 ng/m3n=9)>新宿(2.53±0.895 ng/m3n=8)、加須(2.50±0.245 ng/m3n=5)であった。一方、夜間の大気中平均GEM濃度は新宿(2.58±0.360 ng/m3n=11)、富士山頂(2.38±0.521 ng/m3n=9)、加須(2.37±0.281 ng/m3n=6)、富士山南東麓(2.13±1.88 ng/m3n=14)であり、地点間で明瞭な差が認められなかった。富士山頂および富士山南東麓ともに大気中GEM濃度は日中に高く、夜間に低いという明瞭な昼夜変動を示した。富士山南東麓の大気中GEM濃度は高い気温依存性を示し、火山性堆積物など地表面からの揮発によるものと推定された。富士山頂では気温依存性は認められず、後方流跡線解析の結果、富士山頂の大気中GEM濃度は大陸から空気塊の流入割合がより高い7月に高濃度を示し、山頂では空気塊の流入経路の影響を強く受けることが示唆された。
技術調査報告
  • 久恒 邦裕, 山神 真紀子
    2015 年 50 巻 2 号 p. 107-116
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    PM2.5の環境基準が定められ、各地で常時監視体制が整い多地点のデータを得ることが容易になりつつある。しかし、平均値などを比較しただけではそれぞれの測定地点の特徴を明確にとらえることは難しい。そこで今回、愛知県、岐阜県および三重県の測定局を対象にして、ベイズ統計を用いた条件付き自己回帰モデルにより常時監視データの解析を行った。PM2.5濃度の観測値を、全域に共通した月ごとの影響、0.1°×0.1°で区切られた領域的な影響と測定局ごとの影響の3つに分けて、それぞれ定量的に推定した。領域的な影響は、名古屋港を中心とする愛知県西部や三重県北部において高くなる傾向が、愛知県東部や岐阜県では低くなる傾向が示された。また、それら領域的な影響を排除した測定局ごとの影響についても示し、影響の割合を定量的に評価することが可能となった。ベイズ統計による地理的特徴の結果は、空間自己相関の指標であるLocal Moran's Iや、Conditional Probability Function (CPF) 解析の結果との整合性が確認された。また、領域的な影響と測定局ごとの影響の合計は、全域に共通した月ごとの影響に対して最大で1.50倍になり、逆に低い場合には0.67倍の値になった。観測値と、得られた3つの影響の推定値から計算した濃度の予測範囲を比較すると、観測値のほとんどが予測範囲の中に収まった。大量の極端な値や欠測がある場合には、一部で観測値が予測範囲を超えた。
  • 鈴木 元気, 森川 多津子, 柏倉 桐子, 唐 寧, 鳥羽 陽, 早川 和一
    2015 年 50 巻 2 号 p. 117-122
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    首都圏3地点(野毛、九段、つくば)において、野毛および九段では2006~2013年まで、つくばでは2010~2013年までの夏と冬の大気粉塵を捕集し、多環芳香族炭化水素 (PAH) 9種類およびニトロ多環芳香族炭化水素 (NPAH) 3種類をそれぞれHPLC-蛍光検出法、HPLC-化学発光検出法で測定し、その濃度の変遷を明らかにした。PAH濃度は野毛、九段で2006年から2008年の間の冬に低下傾向が認められた。NPAH濃度は、野毛では2006年から2011年の間の夏と冬、九段では2007年から2009年の間の夏および2006年から2011年の間の冬に低下傾向が認められた。つくばでは観測期間が2010年から2013年と短く、PAHとNPAHのいずれについても明確な変動傾向は認められなかった。また野毛および九段で[1-NP]/[Pyr]値の低下が確認され、PAH、NPAH濃度低下の要因の一つとして自動車排ガス規制による粉塵およびNOx排出量の減少が考えられた。
〔一般論文〕
技術調査報告
  • 板野 泰之, 日置 正, 菅田 誠治, 大原 利眞
    2015 年 50 巻 2 号 p. 123-129
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2015/09/03
    ジャーナル フリー
    2011年度に実施された大気汚染常時監視データを用い、自動測定機による大気中の微小粒子状物質 (PM2.5) の質量濃度時間値の測定精度について考察した。PM2.5質量濃度時間値の測定精度を評価する指標として、各測定地点における負の時間値の出現状況、および、一次の自己相関係数の強さを用い、全国115地点における測定データを解析し、測定機種ごとにまとめて比較した。2011年度に運用されていた5機種では、負値の出現状況が大きく異なり、うち4機種では負値の出現率が高い機種ほど一次の自己相関係数が低くなる傾向が見られたことから、自動測定機による時間値の測定精度に機種による違いがある可能性が示唆された。特定の機種では負値の出現率が高く、一次の自己相関係数も著しく高かったことから、負値が連続して出現しやすい機種の存在も示唆された。PM2.5高濃度時における注意喚起の判断基準に用いられる5~7時など時間平均値と日平均値間の相関係数を指標とし、機種による測定精度の差異が注意喚起に及ぼす影響を調べたが、本手法では影響は認められなかった。PM2.5濃度の時間変化が多様であることが、その主な要因と考えられた。
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