自由対流圏高度の大気中ガス状元素態水銀 (Gaseous Elemental Mercury; GEM) のバックグランド濃度と越境大気汚染の影響を明らかにすることを目的として、自由対流圏高度に位置する富士山頂(標高3776 m)で2014年7月14日から20日、8月22日から25日に集中観測を行った。また、大気境界層上部の富士山南東麓太郎坊(標高1284 m)、地上部都市域の新宿、地上部郊外域の加須で同時観測を行った。日中の大気中平均GEM濃度は富士山南東麓(10.1±7.70 ng/m
3、
n=19)、富士山頂(3.67±0.744 ng/m
3、
n=9)>新宿(2.53±0.895 ng/m
3、
n=8)、加須(2.50±0.245 ng/m
3、
n=5)であった。一方、夜間の大気中平均GEM濃度は新宿(2.58±0.360 ng/m
3、
n=11)、富士山頂(2.38±0.521 ng/m
3、
n=9)、加須(2.37±0.281 ng/m
3、
n=6)、富士山南東麓(2.13±1.88 ng/m
3、
n=14)であり、地点間で明瞭な差が認められなかった。富士山頂および富士山南東麓ともに大気中GEM濃度は日中に高く、夜間に低いという明瞭な昼夜変動を示した。富士山南東麓の大気中GEM濃度は高い気温依存性を示し、火山性堆積物など地表面からの揮発によるものと推定された。富士山頂では気温依存性は認められず、後方流跡線解析の結果、富士山頂の大気中GEM濃度は大陸から空気塊の流入割合がより高い7月に高濃度を示し、山頂では空気塊の流入経路の影響を強く受けることが示唆された。
抄録全体を表示