抄録
2013年6月19日、北陸地方において低気圧に伴う梅雨前線が大雨をもたらしたにもかかわらず100 ppbv以上の高濃度の光化学オキシダント (Ox) が観測された。本研究では、光化学反応に適さない状況下で生じたOx濃度上昇のメカニズムについて、気象要素と大気汚染物質の観測値、客観解析値、領域大気汚染気象予測モデル (NHM-Chem) 計算値を用いて詳細な解析を行った。その結果、Ox濃度上昇は日本海沿岸の広範囲で観測されたメソαスケール (200~2000 km) の現象と、この現象に先行して1~2時間のうちに能登半島付近の数10 kmの範囲で観測されたメソβスケール (20~200 km) の現象に分類することができた。このうち、メソαスケールの現象は低気圧後面のOx高濃度域の流入が原因であると推測された。渦位や相対湿度を用いた解析やNHM-Chemによるオゾン (O3) 予測値からは、梅雨前線北側の力学的圏界面が沈降し、成層圏O3のdry intrusion (乾燥貫入) が低気圧後面で発生していたことが確認できた。一方、メソβスケールの現象については、同時刻にメソβスケールの低温域と南西風とのシアーが能登半島付近を南下していたことがわかった。