2023 年 58 巻 1 号 p. 18-27
人為活動由来の大気汚染物質が過剰に沈着することは、森林生態系における物質循環・生物応答を大きく撹乱させる可能性がある。森林樹冠は、大気と生態系との重要な境界面であり、葉面のエピクチクラワックスは、大気環境により量的・化学的に変化し、ワックスの流亡や劣化、葉面に付着した粒子状物質(PM)による気孔の機能障害は、気候変動ともに水分損失を促進することが示唆された。ワックスの化学性は葉面に沈着する元素状炭素のようなPM沈着プロセスにも関連し、樹木葉面でのPMの捕捉・保持機構は、その大気浄化能を十分活かすためにも、さらに研究が必要である。また、樹木葉面でのNO3−やNH4+の吸収、NH3の放出等も重要な課題である。気候帯の異なる東アジア地域での森林集水域のフィールド研究では、地域の大気汚染物質のSO2排出量、硫黄沈着量は減少傾向にあるものの、生態系の応答は緩慢であり回復には時間がかかることが硫黄同位体比解析から示唆された。アジアの季節性が、大気汚染物質の沈着プロセスや物質挙動を大きく支配しており、特に大気環境の改善による回復過程において、大気汚染レガシーの可動化を含め、気象の変動が重要な役割を果たす可能性があることが指摘された。