大気環境学会誌
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58 巻, 1 号
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総説
  • 青野 光子
    2023 年 58 巻 1 号 p. 10-17
    発行日: 2023/01/06
    公開日: 2023/01/06
    ジャーナル フリー

    オゾンなどの大気汚染ガスにより、植物には葉の可視障害や成長抑制などの様々な障害が起きる。この障害の起きる機構を解明することは、植物の環境ストレス応答機構を理解することであり、植物の障害に対する防御機構を明らかにするとともに、植物にストレス耐性を付与するための重要な知見となる。オゾンなどによる植物の障害の原因物質として活性酸素があるが、その発生から障害が発現するまでの機構は非常に複雑であり、その中で活性酸素の消去、および障害(細胞死)に至るシグナル伝達が重要であることが明らかにされてきた。また、オゾンなどの葉への吸収経路である気孔の開閉制御の重要性も示されている。ここでは、筆者らが1980年代後半から現在にいたるまで行ってきた、活性酸素消去系酵素の遺伝子操作による大気汚染ガス耐性植物の開発、植物の大気汚染ガス耐性における植物ホルモンの働きの解明、そして突然変異体を用いた分子遺伝学的研究による植物の環境ストレス応答機構全体像の理解について概説し、機構解明のために用いた手法とその結果得られた知見について紹介する。

  • 佐瀨 裕之
    2023 年 58 巻 1 号 p. 18-27
    発行日: 2023/01/06
    公開日: 2023/01/06
    ジャーナル フリー

    人為活動由来の大気汚染物質が過剰に沈着することは、森林生態系における物質循環・生物応答を大きく撹乱させる可能性がある。森林樹冠は、大気と生態系との重要な境界面であり、葉面のエピクチクラワックスは、大気環境により量的・化学的に変化し、ワックスの流亡や劣化、葉面に付着した粒子状物質(PM)による気孔の機能障害は、気候変動ともに水分損失を促進することが示唆された。ワックスの化学性は葉面に沈着する元素状炭素のようなPM沈着プロセスにも関連し、樹木葉面でのPMの捕捉・保持機構は、その大気浄化能を十分活かすためにも、さらに研究が必要である。また、樹木葉面でのNO3やNH4+の吸収、NH3の放出等も重要な課題である。気候帯の異なる東アジア地域での森林集水域のフィールド研究では、地域の大気汚染物質のSO2排出量、硫黄沈着量は減少傾向にあるものの、生態系の応答は緩慢であり回復には時間がかかることが硫黄同位体比解析から示唆された。アジアの季節性が、大気汚染物質の沈着プロセスや物質挙動を大きく支配しており、特に大気環境の改善による回復過程において、大気汚染レガシーの可動化を含め、気象の変動が重要な役割を果たす可能性があることが指摘された。

  • 野口 泉
    2023 年 58 巻 1 号 p. 28-34
    発行日: 2023/01/06
    公開日: 2023/01/06
    ジャーナル フリー

    大気環境学会学術賞受賞の対象となった大気沈着に関する研究について主な成果とその研究に至った背景や研究の繋がりについて取りまとめたもので、地域から広域、さらには国境を越えた降水成分調査、乾性沈着評価のためのプログラム開発、乾性沈着成分調査手法の改良、また近年重要となっている反応性窒素の挙動解析など、湿性、乾性および窒素沈着に関する研究の成果と残された課題について報告する。またその中で、アスファルト粉じんの影響などの地域特有の条件、特に積雪寒冷地における地方のフィールド研究であるがために得られた成果など、地域ゆえに展開できた研究であることを示したい。

  • 坂本 陽介
    2023 年 58 巻 1 号 p. 35-45
    発行日: 2023/01/06
    公開日: 2023/01/06
    ジャーナル フリー

    対流圏オゾン(以下オゾン)は、大気汚染気体として健康や、植生への影響が懸念されており、近年ではメタンやブラックカーボン(BC)とともに短寿命気候強制因子(SLCF)として、その削減に注目が集まっている。オゾンは対流圏光化学を通じ二次的に生成するため、その影響評価や将来予測にはオゾン生成に関わる化学プロセスを網羅した精緻な化学モデルが必要である。HOxラジカル(OH、HO2およびRO2)サイクル反応機構(以下HOxサイクル)はオゾン生成の中心的な役割を担っている。HOxサイクルには潜在的な誤差要因を特に含むと考えられるふたつのプロセスが含まれている。一つは、雲やエアロゾルによる過酸化ラジカルの不均一取り込み過程であり、もう一つは、OHラジカルの未把握・計測困難な反応性物質との反応である。両者ともに、考慮の有無でオゾン生成の評価が数十%変化する場合もあることが報告されており、大気化学モデルへの組み込みが課題として残っている。筆者はこれまでにレーザー分光法を用いたHOx反応性測定装置を用いて、エアロゾル粒子による過酸化ラジカル取り込み係数を決定しエアロゾルによるオゾン生成抑制効果の定量的な検証を行うとともに、これまで大気観測で報告されてきた未把握・計測困難なOH反応性物質の生成源調査を大気観測・室内実験を基に行ってきた。本稿では、これまでの両プロセスについての研究成果を概説する。

研究論文(原著論文)
  • 坂本 陽介, Li Jiaru, 河野 七瀬, 中山 智喜, 佐藤 圭, 梶井 克純
    2023 年 58 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 2023/01/10
    公開日: 2022/12/07
    ジャーナル フリー
    電子付録

    大気エアロゾルによるRO2取り込みはオゾン生成を抑制することが示唆されているが、実験値が報告されていないためモデル計算では取り込み係数として推測値が用いられており、その評価は暫定的なものとなっている。そこで本研究では、レーザー光分解ラジカル生成とレーザー誘起蛍光による時間分解ラジカル検出を組み合わせた手法(LP-LIF)に着目し、RO2取り込み係数決定手法としての妥当性を検証した。イソプレン由来のRO2であるISOPOOの塩化ナトリウム粒子への取り込み係数測定を行い、取り込み係数として0.11±0.02が得られるとともに、粒子表面積依存や共イオン効果がモデル予想と定性的に一致したため手法の妥当性が確認された。さらに、粒子濃度濃縮システム(VACES)を接続し大気エアロゾルによるISOPOO取り込み係数の決定を行った。測定誤差で重みづけした加重平均値として取り込み係数0.08±0.05が得られた。すべてのRO2がISOPOOと同様の取り込み係数を持つと仮定した場合、今回の観測地のような清浄な都市郊外([NOx] ~4 ppb、PM2.5 ~5 µg m−3)では2–9%程度のオゾン生成速度抑制効果が予想された。より正確な影響評価のため、今後の測定精度向上と他種RO2における室内実験および大気観測が期待される。

入門講座
資料
  • 2023 年 58 巻 1 号 p. A16-A27
    発行日: 2023/01/10
    公開日: 2023/01/10
    ジャーナル 認証あり

    2022 年9 月に開催した第63 回大気環境学会年会において、年会実行委員会では公開シンポジウム「新生大阪公立大学が拓く脱炭素社会実現への道」を企画した。これまで旧大阪府立大学と旧大阪市立大学では、地球温暖化や大気汚染とも密接に関係するエネルギー問題に関連する研究がそれぞれ独自に進められてきた。エネルギー問題は脱炭素と深く結びつき、これらの問題に対する社会的関心がこれまでにないほど高まっている。そこで、総合知を掲げて2022 年の4 月にスタートした大阪公立大学における先端研究とともに、大阪府が進める脱炭素社会への取り組みを、学会員だけでなく市民の皆様に公開することで社会に還元するとともに社会からのフィードバックを得て、今後の大気環境研究に反映するための機会としたいと考え、本シンポジウムを企画した。 まず、初めに旧大阪府立大学学長で大阪公立大学初代学長の辰巳砂昌弘先生に、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、大阪公立大学が設立された経緯、目的をご説明いただき、その後、脱炭素社会実現を下から支える蓄電池、特に辰巳砂先生が開発された安全性の高い全固体二次電池の説明と開発のお話があった。次に、大阪府環境農林水産部環境政策監の金森佳津氏より、大阪府としての脱炭素社会実現への取り組み、考えについてのお話をいただいた。その後、旧大阪市立大学出身で大阪公立大学経営学部の除本理史先生から、経済的な立場から見た大気環境問題や脱炭素社会実現への提言のお話をいただいた。最後に大気環境学会学術賞を受賞され、この度、大気環境学会名誉会員に推戴された大阪府立大学名誉教授の前田泰昭先生より、大阪府立大学として取り組んだ大気環境研究の一部と、現在行っているバイオディーゼル、バイオジェット燃料開発研究の進展のお話があった。新生大阪公立大学は、大気環境研究を進めながら、脱炭素社会実現に向けてバランスの良い研究体制、総合知を生かすような体制が構築されていることを理解していただけたかと思う。 なお、公開シンポジウムは、新型コロナ対策のため、対面会場は年会参加登録者のみに限られ、一般市民はウェビナーによる視聴により開催された。対面で48 名、オンラインで77 名にご参加いただき、活発に質疑討論がなされた。改めてご講演者、参加者の皆様に感謝いたします。

  • 2023 年 58 巻 1 号 p. A28-A51
    発行日: 2023/01/10
    公開日: 2023/01/10
    ジャーナル 認証あり

    マイクロプラスチックは、海洋、河川、道路粉塵などの環境媒体のみならず、ヒト肺、気管支、妊婦の胎盤、糞便、血液などからも検出されている。モデル研究によると、マイクロプラスチックの体内への摂取経路として経気道曝露が最も重要であるが、大気中マイクロプラスチック(Airborne MicroPlastics; AMPs)の実態と健康影響は不明である。このことを背景として、2021 年より環境研究総合推進費「大気中マイクロプラスチックの実態解明と健康影響評価」(JPMEERF20215003)(Airborne Microplastics and Health Impact、略称:AMΦプロジェクト)を開始した。AMΦプロジェクトは、サブテーマ1「大気中マイクロプラスチックの迅速分析法確立と実態解明、サブテーマ2「大気中マイクロプラスチックの環境動態モデリング」、サブテーマ3「大気中マイクロプラスチックの呼吸器影響の解明」の3 つサブテーマからなる。本特別集会では、AMPs研究の海外における現状と課題を述べた後に、AMΦプロジェクトの研究成果の一端を紹介し、国内における AMPs 研究を活性化することを目的として開催した。本特別集会は、同じ時間帯にポスター発表と日中韓合同シンポジウムが開催されていたこともあり、参加者は約70 名であったが、活発な議論が交わされた。なお、特別集会にご参加いただけなかった会員のために、特別集会の動画を以下で公開予定である。 AMΦプロジェクトホームページ:https://www.airborne-microplastics-and-health-impact.com/

  • 2023 年 58 巻 1 号 p. A52-A71
    発行日: 2023/01/10
    公開日: 2023/01/10
    ジャーナル 認証あり

    日本では人為起源揮発性炭化水素濃度が減少傾向にあるにもかかわらず、大気中オゾン(光化学オキシダント)濃度が増加傾向にあるとの指摘がある。光化学オキシダント濃度の低減に向けて、大気化学の基礎研究が強力に推進されている。室内実験、野外実験、モデル計算等によるエアロゾルの気液界面での反応機構、酸化性ガスのエアロゾルへの取り込み、酸化性ガスの寿命を決める物質生成、それらの微細過程のモデルへの取り込みについての最新の研究成果が、話された。世話人の把握による対面参加者数は概数であるが、約70 名強であった。Zoom 参加者は未把握である。

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